苦手な同僚が同担だった件について。

気づきたくない思い



「〜〜……っ、やばい……」
「めちゃくちゃよかった……」
「よすぎた……」


 今日は香の主演舞台を観劇する日。
 終わった瞬間、二人して放心していた。


「やばい、泣けたんだけど」


 そう言う飛鳥さんは鼻を啜っているし、目にはまだ涙が浮かんでいる。私は自分のハンカチを差し出した。


「ありがとう」
「いや、私もほぼ泣いてたから」
「ほぼって何?」
「ギリギリで涙を堰き止めたってこと」
「何それ」


 おかしそうに笑いながら涙を拭う飛鳥さん。


「このハンカチ、洗って返すね」
「え、いいよこれくらい」
「いや、そういうわけにはいかないって」


 大して濡れたわけでもないのに、律儀だなぁと思った。
 規制退場で会場を後にし、そのまま帰らず近くのカフェに入る。
 ここからがある意味本番というものだ。


「伏線回収がすごかった。後半とか怒涛の展開すぎて」
「わかる。これは何度も観たくなるよね」
「ほんとにそう! 当日券取ろうか悩む!」


 語っても語り尽くしても止まらない。
 それほど今回の舞台は素晴らしかった。
 主演が香だという贔屓目を抜きにして、脚本も良かった。


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