泡沫ユートピア
鏡合わせのような双子の男の子。それが私の幼馴染だった。
いつから一緒にいたのか、正確には分からないけれど物心がついた頃にはすで彼らと知り合いになっていた。最初のうちは二人の世界に到底入れてもらえる訳もなく、何となく同じ場所にいて二人と一人で遊ぶようなものだった。
​その関係性が変わる特別なきっかけがあったわけではない。私自身、二人が仲良く戯れている光景を少し離れた場所から眺めているのが、それだけで十分に楽しかったのだ。
​『あの、いっしょにあそばない?』
『お前も、一人で遊ぶのは嫌だろ』
『ふたりが良いなら……』
そうしている内に、二人は私という異物を受け入れてくれて、二人の世界に加えてくれるようになった。大人達が勝手に決めた許嫁なんて正直どうでも良くて、私はただ二人と過ごすことが出来る。それだけで良かった。

「ねぇ、これは本当に必要なの?」
「「必要!」」
​試着室のカーテンを開けた瞬間、双子の声が見事に重なった。
二人が「これ着てみて!」と次々に手渡してきた服に袖を通しているものの、自分では似合っているのかすらさっぱり分からない。休日の朝、問答無用で車に押し込まれて大型ショッピングモールに連れて来られ、今に至る。
二人と同居を初めて三週間が経つ。
今のところ、三人で暮らしているという衝撃の事実は学校ではなんとか隠し通せている。二人が校内でどれほどの注目を集める存在か知っている分、バレたら私の平和な高校生活が一瞬で崩壊するのは目に見えていた。
​そもそも、今日ショッピングモールに来た目的は――来月に迫った宿泊学習の準備、らしい。
「お前の生活能力の無さはどうにかしないとな」
「まさか未来ちゃんの持ってる服が少なかったなんて……」
「何で二人も一緒に……」
「俺達が見てねぇと、何かに襲われでもしたどうするんだ」
「人を変質者吸引器みたいに……」
「あながち間違ってはねぇな」
「うーん、否定出来ないのが辛い」
ぐうの音も出ない私を見て、蓮くんがぱぁっと表情を輝かせた。
「でも、三人で一緒に暮らせるなんて夢みたい……!お揃いのパジャマ買おうね!」
​なんだか目にも止まらぬ速さで、私の意思を置き去りにしたまま買い出しの計画が進んでいく。
​買い物を終えて家に帰り、ぐったりとソファに身を沈める。
「宿泊学習、楽しみだね!」
目をキラキラと輝かせた蓮くんが、私の腕にぎゅっと抱きついてきた。勢い余って目の前のローテーブルが少し揺れる。
華奢(きゃしゃ)可憐(かれん)な蓮くんだが、意外と力が強いのだ。
「部屋は男女別らしいな」
「いや、当たり前でしょ!?」
「僕、バスは未来ちゃんの隣に座りたい」
「……私が他の女子から目の(かたき)にされる」
「んなもん、無視しとけば良いだろ」
「無視出来たら気にしてないの!」
上目遣いに、濡れた瞳で私を見つめてくる蓮くん。
「僕達と一緒にいるの……嫌?」
「そういう訳じゃないけど……」
「じゃあ何も問題ねぇな」
「僕と悠斗と未来ちゃん。三人でずーっと一緒だね!」
砂糖菓子のようなとろけるような笑みで嬉しそうに呟く蓮くん。甘ったるい瞳の奥から底知れぬ闇を感じて、背筋に一筋汗を垂らす。悠くんも悠くんでじっと獲物を狙うような目付きで私を見ないでほしい。心做(こころな)しか腕に絡み付く力が強まった気がするが気付かないフリをしておいた。
今、この場面をクラスの子達に見られていたら確実に私の学校生活が終わっていた。
「そうだ!今度一緒に指輪見に行こうよ」
「……え?」
何を思ったか蓮くんが指輪を見に行くのを提案した。あまりにも唐突過ぎて悠くんなんか飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになっている。
「蓮斗……お前」
「良いでしょ?未来ちゃん。僕と結婚してよ」
「…………」
​完全に処理容量オーバーでフリーズした私を置き去りにしたまま、双子の会話が加速していく。
「蓮斗、お前なぁ。未来も困ってるだろ……それに、そういう話は」
「悠斗も急がないと僕に未来ちゃん取られちゃうよ?」
​珍しく、蓮くんが挑戦的な笑みを浮かべて悠くんを煽る。
いつも冷静な悠くんが「くっ……!」と拳を握りしめてぷるぷると震え、その横で私は完全に思考を停止させた石像と化していた。
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