【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 ◇


(……殿下の体は見慣れているはずなのに、どうしてこんなに恥ずかしいのかしら。殿下の方を、まったく見られないわ)

 
 夜の寝室とは違い、浴室(ここ)が明るいからだろうか。
 慣れた自分の部屋ではなく、アレクシスの部屋の風呂だからだろうか。

 それとも、アレクシスと会うのがひと月ぶりだからだろうか。

 あるいは、アレクシスの眼差しが、いつも以上に鋭いせいなのか――。


(殿下の視線が、痛い……)


 背中を向けているにも関わらず、視姦されているような気分になってくる。

 アレクシスの顔も体も見えていない。触られてもいないのに、心臓が脈打って、身体が火照ってしょうがない。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、何も考えられなくなる。

 そんな場合ではないと、わかっているのに――。
 

「あ……あの、殿下。……やはり、わたくしは一人で……」

 羞恥心のあまり、エリスは咄嗟にそう口にした。
 けれど当然の如く、アレクシスには却下され――。

「何を今更。君が言ったんだぞ、あいつとは何もなかったと。君はそれをこれから、俺に証明してくれるのだろう?」
「――っ」


 ちゃぷ――と、水の刎ねる音がした。

 アレクシスの影が背後へと迫る。

 水面が揺れる――その振動だけで、エリスの心臓は張り裂けんばかりに音を鳴らした。


「なるほど。確かに背中には何の痕もないようだ」という声に、理由もなく、肩が震えてしまう。

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