Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
ウッドヴィルは石造りの建物が多い地味な雰囲気の街だったが、青い空にのぼる明るい太陽が素朴な通りを照らしだし、なんでもない田舎の軒並みを魅力的にみせていた。
いつもにまして饒舌なローナンがオリヴィアに街の説明をするかたわらで、いつも以上に仏頂面のエドモンドが無口に歩いている。
オリヴィアは出来るかぎりエドモンドにも会話に加わってもらいたくて、少しでも珍しいものがあると大袈裟に喜んで彼の関心を引こうとしたが──効果のほどは不明だった。
「見てください、ノースウッド伯爵! あの軒にある花はとても綺麗な色ですね」
小さな花壇を指差してオリヴィアが言うと、エドモンドはその桃色の花とオリヴィアを素早く見比べて、「そうだろうか」というようなことを言った。
「ええ、とても綺麗です。珍しいし、大好きな色だわ」
「……覚えておこう」
エドモンドが素っ気無く答えたので、やはり男性は花の話題など興味がないのだと……オリヴィアは唇を噛んだ。
だとしたら何を話せばいい?
会話上手なローナンのおかげで、三人はそれなりに楽しげに散策していたが、オリヴィアの心の中には嵐のまえのようなざわつきが途絶えなかった。
この街に来た理由は、エドモンドとの仲を進展させたくて、だったのに。ローナンはいい案があると言ったが、状況は何も変わっていない。
しかし何を企んでいるのか、ローナンはある仕立て屋の前にくると足を止めてオリヴィアを振り返った。扉に洒落たフランス式の丸いノブが付けられていて、銀色のプレートに「マーガレットの仕立て屋」と彫ってある小さな店だ。
「ここの仕立て屋は中央からも注文が入るそうだよ。素敵な布やスケッチが沢山ある。入ってみたいだろう、オリヴィア?」
「え、ええ……それはもちろん……」
そういえば、ローナンは最初から仕立て屋に行ってみようと言っていたことを思い出して、オリヴィアは頷いた。
思わずエドモンドを見上げてみると、彼は目を細めてローナンを見ている。
──どこか警告するような目だった。
オリヴィアには、エドモンドが警戒する理由を一つだけ思い当てることができた。
「大丈夫です、ノースウッド伯爵。出来るだけ安価な布で作るようお願いしますから、安心してください」
緊張した声でささやくオリヴィアを見下ろして、エドモンドは何かを低く唸っていた。
いつもにまして饒舌なローナンがオリヴィアに街の説明をするかたわらで、いつも以上に仏頂面のエドモンドが無口に歩いている。
オリヴィアは出来るかぎりエドモンドにも会話に加わってもらいたくて、少しでも珍しいものがあると大袈裟に喜んで彼の関心を引こうとしたが──効果のほどは不明だった。
「見てください、ノースウッド伯爵! あの軒にある花はとても綺麗な色ですね」
小さな花壇を指差してオリヴィアが言うと、エドモンドはその桃色の花とオリヴィアを素早く見比べて、「そうだろうか」というようなことを言った。
「ええ、とても綺麗です。珍しいし、大好きな色だわ」
「……覚えておこう」
エドモンドが素っ気無く答えたので、やはり男性は花の話題など興味がないのだと……オリヴィアは唇を噛んだ。
だとしたら何を話せばいい?
会話上手なローナンのおかげで、三人はそれなりに楽しげに散策していたが、オリヴィアの心の中には嵐のまえのようなざわつきが途絶えなかった。
この街に来た理由は、エドモンドとの仲を進展させたくて、だったのに。ローナンはいい案があると言ったが、状況は何も変わっていない。
しかし何を企んでいるのか、ローナンはある仕立て屋の前にくると足を止めてオリヴィアを振り返った。扉に洒落たフランス式の丸いノブが付けられていて、銀色のプレートに「マーガレットの仕立て屋」と彫ってある小さな店だ。
「ここの仕立て屋は中央からも注文が入るそうだよ。素敵な布やスケッチが沢山ある。入ってみたいだろう、オリヴィア?」
「え、ええ……それはもちろん……」
そういえば、ローナンは最初から仕立て屋に行ってみようと言っていたことを思い出して、オリヴィアは頷いた。
思わずエドモンドを見上げてみると、彼は目を細めてローナンを見ている。
──どこか警告するような目だった。
オリヴィアには、エドモンドが警戒する理由を一つだけ思い当てることができた。
「大丈夫です、ノースウッド伯爵。出来るだけ安価な布で作るようお願いしますから、安心してください」
緊張した声でささやくオリヴィアを見下ろして、エドモンドは何かを低く唸っていた。