Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
Unbreakable 壊れぬ心で
舞踏会や夜会と聞いてまずエドモンドが思い浮かべる言葉は、『退屈』 とか、『下らない』 とか、そんな面白くもなんともないものばかりだ。
肩や胸を露出した派手なドレスをまとった婦人たちのあいだを、真っ黒な礼服を着た男たちが物欲しそうに歩き回り、ちょっとした楽しみや賞賛を得るために甲斐甲斐しくリキュールやカクテルを婦人たちの元へ運んでは、気の利いたところを見せようと躍起になる。
若者たちは広間でメヌエットやワルツを踊り、年配の男たちは談話室で葉巻を吸いながら政治や狩猟の話をして、一人身の女性は壁際の椅子に座って誰かがダンスに誘ってくれるのを待って落ち着きのない顔をしている。
醜聞や噂話が熱く会場を飛び交い、誰も彼もがこの場で一番美しく賢い存在であると証明したくてうずうずしている。
こんな飽き飽きするような集いがさも大儀に──それも定期的に──催されるのは、彼ら貴族たちが精神を病んでいるからではないかとさえ、エドモンドは訝しがっていた。
しかし、そんな彼らも、今のエドモンドと比べればだいぶまともな存在なのだろう。
なによりも今夜の舞踏会が『退屈』 とか『下らない』 と表現するものに終始するとは……到底思えなかった。
ぱりっとした礼服を着込むと自分で袖口のカフリングを留めて、エドモンドは鏡と向き合った。
自分で自分の葬式をあげに行くような気分ではあったが、心のどこかではまだ、正体の分からない炎が消えずに火の粉を散らしているのも感じる。
鏡に映った緑の瞳は、かつてないほどに熱を帯びていた。