Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
エドモンドは、ベルフィールド子爵にしたのと同じように、恐怖で床から立ち上がれないでいるヒューバートの服にデカンターの残り全てを振りかけた。
そして残りのロウソクをズボンの裾の上に落とす。
エドモンドは、パッと燃え上がる炎を冷ややかに眺めていた。
「あああぁ、た、助けてくれぇっ!」
下の方から勢いよく燃え上がる服に身を包まれ、ヒューバートはなんとか立ち上がり、ベルフィールドと同じように扉から外へ駆け出そうとした。
外は強い雨が降っている。早く駈けつければ焼け死なずにすむかもしれない。
しかし、今度のエドモンドは違った。
素早い動きでヒューバートの先に回ると、扉を閉めて行く先を封じた。
「お前は奴とは違い、そう簡単には許さない」
簡単に? 許したのか?
疑問の多い台詞ではあったが、ヒューバートにそれを構っている余裕はなかった。
「じゃあどうしろと言うのだ! ああ、助けてくれ! 燃え死んでしまう!」
「そこに窓がある」
エドモンドは、まるで小さな子供に諭すように、部屋の奥にあるガラス窓を指差した。「好きにするんだな」
一体、ヒューバートに選択の余地などなかった。服は燃えている。火が、炎が、そのあまりに熱い熱気が彼の身体を恐ろしい速さで焼き尽そうとしている。
ああ、くそ!
ヒューバートは文字通り涙を流しながら、窓に向かって突進した。
その動きはまるで、溺れている者が水の中でもがいているようでもあった。
オリヴィアが蒼白になって凍りついている目の前で、ヒューバートはそのまま窓を突き破り、断末魔のような悲鳴をあげながら地上に落下していった。
ガラスが砕ける鋭い音と、それに続くドサッという鈍い音。
しばらくすると、「ああ、腕が、わたしの腕がぁ!」というヒューバートの叫びが、二階にいるオリヴィアのところまで聞こえてきた。
つまり——とりあえず命だけは助かったようだった。