Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 砂利道に入ったのか、がたがたと揺れる座席に居心地の悪さを感じながら、オリヴィアは息をひそめていた。
 エドモンドの熱い体温が、しっかりと握られた手から伝わってくる。ある意味、オリヴィアはピートの存在に感謝していた。

 もし今この馬車の中で、エドモンドと二人きりだったら。
 お互いに、どれだけ情熱を抑えておけるかは、神のみぞ知る謎だったから。

 三人はずいぶん長い間、黙り続けていた。

 誰が最初に口を開くことになるのかは、いよいよ忍耐の競り合いのようになり、暗闇の中でお互いの出方を探っているような状態だった。
 特に、エドモンドとピートは。
 オリヴィアはだんだんと居たたまれなくなり、あと五分……と、心の中で決意した。あと五分しても誰も話し出さなければ、自分が話題を切り出そう。

 そんな時だった。

「……お前ら二人を見ていると、わしは自分の愚かな過去を思い出す。特にエドモンド……お前は危うくて見ていられんことがあった」

 先に喋りはじめたのはピートだった。
 その声は驚くほど落ち着いており、いままでのしゃがれ声がつくり声だったのではないかと思えるほど、はっきりとしていて明瞭だった。
 オリヴィアは素早く隣のエドモンドに顔を向けたが、彼はじっとピートを見据えたままだ。
 ピートの流暢な独白は続いた。

「お前のその、頑固に現実を受け入れようとしない姿勢は、まさにバレット家の愚かなる男たちに代々受け継がれてきたものだ。わしも、息子も、お前も、形さえ違えど全員同じ穴のムジナだ」

 愛する夫を愚か者呼ばわりされて、オリヴィアはもう少しで反論に口を開くところだった。しかし、エドモンドの手がぎゅっとオリヴィアの手を握り、それを止める。

 オリヴィアは身もだえしてしまいそうなほどだったが、大人しく彼の無言の願いに従った。
 いや、従おうとした。

「お前は露骨にそこの小娘に熱を上げていたくせに、それを認めようとしなかった。お前の父親は、妻の死を認められなかった。そしてわしは……」
「え、ちょっと待ってください!」オリヴィアはつい口を挟んだ。「露骨に? 熱を上げていた? それは本当ですか?」
「うるさいんだお前は。ちょっと黙っておれ」
「でも、それはぜひ聞かせていただきたいところです。どうしてあなたの目にはそう映った──」

 と、言いかけたところで、エドモンドの手がさっと伸びてきてオリヴィアの口をぐっと覆った。
 まるで焦っているように。

「マダム、他人などに聞いて確認しなくても、後でいくらでもわたしが教えてあげよう。今は黙っていてくれないか」
「ん──っっ」

 オリヴィアのくぐもった声が狭い馬車内に響いたが、男たちはいわば、それを無視した。

 馬車はいくぶんか速度を上げているようで、雨降りの夜中にしては早い走りをしている。このぶんで行けば、屋敷に着くまでそう長くは掛からないだろう。

 ピートは今一度、尊大に咳払いをした。

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