Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
聞きたいことは五万とあったが、今この瞬間に大切なことは、それほど多くない。
エドモンドは短いため息をつくと、祖父の暗い思い出にはできるだけ手を出さないようにしようと心に決めた。それらはいつか、ピート自身が語りたくなった時に、知ることが出来ればいい、と。
たとえ永遠に知ることができなくても、過去はもう変えられないのだから。
「ひとつだけ、教えてください」
エドモンドの穏やかな声が狭い馬車いっぱいに響いても、ピートは小さな窓から視線を離さないままだった。
「あなたは、息子とは……わたしの父とは、会ったことがありましたか」
ピートは外を見たままわずかに頷いた。
「……むこうは気づかなかっただろうがな。まあ、わしによく似た、頑固そうな子だった……少なくとも、あれの父親は間違いなくわしだった訳だ」
「どうして息子の元に帰らなかったんです?」
しかし、ピートはもう答えなかった。
エドモンドも、重ねてもう一度聞こうとはしなかった。
ピートは行方不明だった間、一体どこにいたのか。逃げた妻を追っていたのか、それともただ傷心に暮れて放浪していただけなのか、なにか問題に巻き込まれて帰れなかったのか……。
謎は残るが、その孤独な横顔を見るかぎり、彼が深く後悔しているのだけは確かだった。エドモンドは静かに目を閉じて、深く息を吸った。
再び瞳を開いたとき、エドモンドの手の中にあるオリヴィアの手が、かすかに動いているのが見えた。
顔を上げると、大きな水色の瞳にじっと見つめられているのに気が付く。
薄い暗闇の中でも、その瞳は、まるで希望の象徴のように明るく輝いている。
──ああ、今だけじゃない。
これまでもずっとそうだった。そうやって、エドモンドの苦しみに一筋の光を投げかけてくれていたのが、彼女だった。
そして願わくば、これからも。