Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「オリヴィア」
 と、エドモンドは彼女の名前を呼んで、彼女の両頬をしっかりと手の中に収めた。

 前でピートがなにがぶつぶつと文句を垂れている。
 馬車が忙しく揺れて、車輪がぎしぎしと音を立てる。でも、そんなことはどうでもよかった。

「初めて見た瞬間から、あなたを愛している。この想いは募るばかりだ。そして今、あの頃とは比べものにならないほど、強くあなたを求めている」

 オリヴィアは両手でそっとエドモンドの手首に触れ返した。
 互いの熱い血潮が、どくんどくんと、感じられるような気さえ、する。

「この分では、わたしは今にあなたを愛し尽くしてしまうだろう。あなたを壊してしまうかもしれない。どこまで自制できるか、自信はない。あなたは悲鳴を上げて逃げ出すかもしれない。そのくらい激しい愛だ」

 その台詞に、オリヴィアはひるむことさえなかった。そして、

「ええ……もしかしたら」
 逃げ出すどころか、甘く微笑んで、夫の前に不器用に唇を差し出す。「でも、あなたは追ってきてくれるでしょう、ノースウッド伯爵……?」

 そして、オリヴィアは世界で一番優しい口づけを受けた。
 それはずいぶん長い間続き、堪忍袋の緒を切らしたピートが邪険な咳払いをするまで、止むことはなかった。

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