ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


 私の働いているスーパー「アシタバ」の道を挟んで向かいには、交番がある。駅前で人どおりが多い場所ではあるものの、さほど都会ではないということもあり、慌ただしい雰囲気は感じられない。

 私がドアを開けると、男性の警察官の方が一人机に座っていた。

「こんにちは、どうされましたか?」

「えっと、こちらに黒崎さんって方はいらっしゃいますか? 私、道向かいのスーパーの者なのですが、今日、黒崎さんに助けていただいて、是非お礼を言いたくて……」

「ああ、うちの黒崎ですか。おりますよ。黒崎、お客さんだぞ!」

 男性は部屋の奥の扉を開けて、呼びかけた。すると、黒崎さんがすぐさま歩いて来たのだった。

「貴女は、昼間の……レジの方ですよね?」

「は、はい。その……っ、今日はお助けいただいてありがとうございました。これ、良かったら皆様で食べてください」

「わざわざ、ありがとうございます」

 私から菓子折を受け取り、黒崎さんは会釈してくれた。

「これ……どら焼きなんですけど、和菓子はお好きでしたか?」

 私が差し出したのは、八個入りのカスタードクリームと小倉餡が入ったどら焼き。せんべいと迷ったものの、シュークリームを買っていたので、黒崎さんは甘いものが好きだと思ったのだ。

「もちろんです。ご丁寧に、ありがとうございます」

 そう言って、黒崎さんは嬉しそうに笑った。それは昼間に見た険しい顔つきとはまったく違う、屈託のない笑顔。彼の笑顔を見て、なぜかどきりと心臓が跳ねた。

「じゃあ、失礼します」

「はい、帰りお気をつけて」

(頼もしくって、素敵なお巡りさんだなあ……)

 そんなことを思いながら、私は家路に着いたのだった。
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