ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女


「お肉、焼いていきますね」

「じゃあ、俺は野菜を並べていきますよ」

「橘さん、飲み物どれが良いですか?」

「えっと、ウーロン茶で」

 キャンプ場に着いた私たちは、バンガローのテラスでバーベキューを始めていた。

 バンガローには鉄板や食器類、そしてバーベキューの食材までそろっている。「手ぶらで来れるキャンプ場」がコンセプトということもあり、室内の備品はとても充実していた。

 席順は、男性陣三人と私たち三人がそれぞれ一列になるようになっていた。それぞれが、意中の彼と向かい合うようにしたのである。

 そんな訳で、私は黒崎さんの向かいの席に座っているのだけれども……。

 私は序盤から、黒崎さんに世話を焼かれっぱなしになっていた。

「ピーマンと玉ねぎはもう少し焼いた方が良さそうですけど、トウモロコシはそろそろ良さげですね。橘さん、食べますか?」

「え、あっ、はい。欲しいです」

「お皿もらいますね。タレはどれが良いですか? 普通のタレと塩と……あと、レモン汁もありますけど」

 こんな感じで、私が動くより先に黒崎さんが動くので、私が付け入る隙がないのだ。

『黒崎さん、あんまり料理が得意ではなさそうじゃない? だったら率先してお肉を焼いたり飲み物を用意したりすると、アピールポイントになるんじゃない?』

 実夏にそう言われたものの、今の状況はまったく想定外だった。
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