ガテン系おまわりさんの、溺愛彼女
「どうぞ。あれ、橘さん、どうしました?」

「ありがとうございます。その……黒崎さん、とってもバーベキュー慣れしてるなぁと思って」

 仕切りたがりという訳ではないが、調味料や飲み物をみんなが取りやすいようにテーブルの左右二手に分けて置いたり、ウエットティッシュを持ってきていたり、細かい気遣いが尋常ではないのだ。

「何と言うか……学生時代の部活の合宿だと、下級生に雑務が全部まわってくるので、それで慣れたのかもしれないですね」

「は、はあ……ただ、私もお肉とか焼くの代わるので、黒崎さんも食べてくださいね?」

 さすがに任せっぱなしは申し訳ないので、私は慌てて言った。

「ああ、大丈夫ですよ。焼きながら、適当に食べてるんで」

 そう言って、黒崎さんは箸でお肉を一切れ口に放り込んだ。

「先輩方の隙をついて食べるのも、後輩のスキルのうちですから」

「ふふっ、黒崎さんってば」

 雑務をこなしながら、せっせと自らもこっそりバーベキューを楽しむ黒崎さんの姿を想像して、私はつい吹き出した。

「あっ、橘さん」

「?」

「口元、汚れてます」

 そう言って、黒崎さんは私の口元をウエットティッシュで拭った。翔くんと公園の芝生でサンドイッチを食べた時と、まったく同じように。
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