ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
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小学校に上がったばかりの頃だった。
休日の昼間に都会のホテルで開かれた大人ばかりのパーティーに連れてこられていた私は、食べたことのない豪華な料理や甘い匂いのするケーキに目を奪われて、気づいたら迷子になっていた。
「君は一人なの?」
声をかけてくれたのは男の子だった。
まわりの大人たちに比べたらもちろんそれほどでもなかったんだろうけど、相手も子どもとはいえ低学年の私に比べればかなり背が高いような気がした。
――中学生くらいのお兄さんかな。
と、その時の私は思ったんだけど、後から三つしか違わないと知ってびっくりしたのよね。
ただ、格好がやっぱり小学生だなって思ったのも覚えている。
だって、半ズボンにサスペンダー、それにすらりと細い足に白いハイソックスだったんだもん。
なんだか外国の少年合唱団の人みたいでしょ。
実際、しゃべっているのは日本語だったけど、髪の毛の先がふんわりとカールして色は明るめで、瞳も茶色にちょっと緑が混じった不思議な色だったから、本当に外国から来た人なのかと思ったのよね。
「親と来たんだろ。お母さんと一緒?」
「ううん。お父さん」
母は膵臓というところが急に悪くなって、私が三歳の時に亡くなっていた。
父は大学で教える先生で、こういった大人の集まりに出席しなくてはならないときは、以前から何度も私を連れてきていたのだ。
もちろん、私はお仕事には何の興味もなかったけど、おいしいものを食べておとなしく椅子に座っていれば良かったし、変わったおじさんがいるなとか、すごいドレス着たお姉さんがいるなとか、いろんな人を眺めているのも嫌じゃなかったのね。
それに、いい子にしていたら、帰りに本屋さんに寄って好きな本をなんでも買ってもらえたし(お父さんは、自分が読みたい本を私よりたくさん買っていたけど)。
だから、その日も、迷子になったからといってそんなに不安ではなかったし、いつもどおり壁際にある椅子に座っておとなしく待っていれば、父の方から探しに来てくれるだろうと思っていたってわけ。