ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
なのに、その男の子は私のことを心配したのか、親切にも手を引いて、大人の人に教えに行ってくれたのだ。
連れていってくれたのは、大勢の人に囲まれていそがしそうなおじいさんのところだった。
だけど、その男の子は私の手を引いたまま遠慮なく輪の中へ入っていった。
「幸之助おじいさま、ちょっとよろしいでしょうか」
「ん、蒼也か。どうした?」
「この子が迷子になったそうで、連れてきました」
「おう、そうか、そうか。それは良いことをしたな」と、そのおじいさんは男の子の頭を撫でながら、よっこらしょと膝を曲げて私の目をじっとのぞきこんできた。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「咲山翠です」
思い返してみれば、その時の私は学芸会で発表する幼稚園児みたいに、両手をぴったり体にくっつけて気をつけの姿勢で「さーきーやーまーみーどーりーでっす」と言ったんだと思う。
「むほほ、これは元気のいいお嬢さんだな。もしかして、咲山先生の娘さんかな」
――あれ、おじいさん、うちのお父さんのこと、知ってるの?
男の子が横からおじいさんに言ってくれた。
「父親がこの会場にいるようなので探してあげたいのですが」
「うむ。それは良いことじゃが、心配はいらんようだぞ」
よっこいせと膝に手を当てながら立ち上がったおじいさんが、私の両肩に優しく手を置いて、くるりと回す。
真っ正面には、慌てた表情で駆けてくる私の父がいた。
「これはどうも、すみません。ちょっとあいさつをしていた隙に迷子にしてしまったようで」
「やはり咲山先生のお嬢さんでしたか。元気のいい娘さんですな」
「おかげで、会場の向こうから聞こえましたよ。いやあ、お恥ずかしい」
――もう、何よ、私のせいにして。
大人の人と話してて私のことなんか忘れちゃったお父さんがいけないんでしょ。
よほど私が口をとがらせていたんだろう。
男の子が私を見て微笑んでいた。
「墨を吐いてるタコみたいだよ」
「あ、タコって言った」
ぷんすかとそっぽを向いた私を見ておじいさんが御機嫌に笑う。
「二人とも仲がいいな」
――良くないもん!
連れていってくれたのは、大勢の人に囲まれていそがしそうなおじいさんのところだった。
だけど、その男の子は私の手を引いたまま遠慮なく輪の中へ入っていった。
「幸之助おじいさま、ちょっとよろしいでしょうか」
「ん、蒼也か。どうした?」
「この子が迷子になったそうで、連れてきました」
「おう、そうか、そうか。それは良いことをしたな」と、そのおじいさんは男の子の頭を撫でながら、よっこらしょと膝を曲げて私の目をじっとのぞきこんできた。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「咲山翠です」
思い返してみれば、その時の私は学芸会で発表する幼稚園児みたいに、両手をぴったり体にくっつけて気をつけの姿勢で「さーきーやーまーみーどーりーでっす」と言ったんだと思う。
「むほほ、これは元気のいいお嬢さんだな。もしかして、咲山先生の娘さんかな」
――あれ、おじいさん、うちのお父さんのこと、知ってるの?
男の子が横からおじいさんに言ってくれた。
「父親がこの会場にいるようなので探してあげたいのですが」
「うむ。それは良いことじゃが、心配はいらんようだぞ」
よっこいせと膝に手を当てながら立ち上がったおじいさんが、私の両肩に優しく手を置いて、くるりと回す。
真っ正面には、慌てた表情で駆けてくる私の父がいた。
「これはどうも、すみません。ちょっとあいさつをしていた隙に迷子にしてしまったようで」
「やはり咲山先生のお嬢さんでしたか。元気のいい娘さんですな」
「おかげで、会場の向こうから聞こえましたよ。いやあ、お恥ずかしい」
――もう、何よ、私のせいにして。
大人の人と話してて私のことなんか忘れちゃったお父さんがいけないんでしょ。
よほど私が口をとがらせていたんだろう。
男の子が私を見て微笑んでいた。
「墨を吐いてるタコみたいだよ」
「あ、タコって言った」
ぷんすかとそっぽを向いた私を見ておじいさんが御機嫌に笑う。
「二人とも仲がいいな」
――良くないもん!