ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
 手際よく甘い香りのアップルティーがグラスに注がれ、悠輝のお土産と共にテーブルに並べられる。

 三人はラグの上に腰を下ろして好きなスイーツを選んだ。

 エクレア、プリン、フルーツゼリー、ロールケーキにクレープと、スイーツバイキングのようで目移りしてしまう。

「実はさ」と、それぞれ選んで食べ始めたところで蒼也が祖父の容態について話を切り出した。

「幸之助さんが」と、悠輝がスプーンを持つ手を止めた。「それはまた何と言ったらいいか。僕のことも蒼也と同じように孫みたいにかわいがってくれてたからね」

「俺には厳しかったぞ」

「何言ってんだよ、おじいちゃん、甘甘だったじゃんか。子どもの頃にさ、蒼也の家に遊びに行くと、いつも萬英堂のどら焼きをくれてさ。ほら、ミサラギホテルにも入ってるだろ。初めて食べた時に僕が『すごくおいしいです』って言ったのをいつまでも覚えていて、おととしくらいにお目にかかった時にも用意してくれてたんだぜ」

「そうだったっけか」と、蒼也は照れくさそうにスイーツを口に押し込んでつぶやいた。「うまいな」

 悠輝がニヤけながら翠に耳打ちする。

「翠ちゃん、これ、蒼也の最大級の褒め言葉だから」

「そうなんですか」

「嘘情報教えるなよ」

「蒼也はね、本当においしいと思ってるときは口数少なくなるんだよ」

「そんなことないって」

 意固地な否定が逆効果だと気づいて蒼也は黙り込んだ。

 そんな様子を横目に悠輝がわざとらしく棒読みふうに言う。

「あーあ、これからは撮影にお邪魔しにくくなるなぁ」

「いいですよ」と、翠が手を振る。「今まで通りにしてください。私も撮影のお邪魔はしませんから」

「蒼也に蹴飛ばされたくないから遠慮するよ」

「DV男みたいに言うなよ」と、蒼也が眉間に皺を寄せた。

「これはそうだね。名誉のためにも訂正しなくちゃ。翠ちゃん、蒼也はそういうことはしないやつだから安心して。なにしろ、育ちがいいからね」

 翠はクスクス笑って聞いているが、蒼也は鼻に汗を浮かべている。

「だからさ、おまえが言えば言うほど嘘くさくなるだろ」

「はいはーい、黙ってスイーツ男子になりまーす」

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