ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
 その宣言からは、三人で真面目なスイーツ品評会をおこない、悠輝のこだわりが詰まったカスタードエクレアが満場一致でグランプリに選ばれた。

「このエクレア、いくつでも食べられますね」

 翠の賞賛に蒼也がかぶせる。

「アップルティーが合うんだろ」

 悠輝がまた翠に顔を寄せてささやく。

「ね、意外と評論家としても信頼できるだろ」

「聞こえてるぞ」

「その感想、キャンペーン動画で使わせてもらうよ。名前は出せないから、僕からのお勧めの食べ方ってことで」

「勝手にどうぞ」と、蒼也が呆れ顔で肩をすくめる。

「あ、そういえば、夕飯どうします?」と、翠がたずねた。

「甘いもので満たされてしまったな」と、蒼也はグラスに残ったアップルティーを飲み干した。

「パスタとサラダでも作ろうか」と、提案した悠輝が頭をかく。「ていうか、僕邪魔だよね。蒼也は翠ちゃんの愛情たっぷり御飯を期待してるんだもんね。退散しようか」

「愛情って、べ、べつに、ふつうの御飯ですって」

 慌てる翠の表情を楽しんでいる悠輝に、蒼也がぶっきらぼうに言う。

「べつに、邪魔ってことはないさ」

「でも、撮影しないなら、ここには用はないからね」

「だから、専用スタジオみたいに言うなって」

 と、その時だった。

 キュルルルゥと、翠のおなかが鳴り響いた。

「え、あんなに食べたのに?」と、悠輝が朗らかに笑う。

「あ、あの、これは違います」

 蒼也も笑い出す。

「実際、夕飯何にするかな。楽しみだな」

「おっと、じゃあ、今度こそ、僕は退散するよ。蒼也との友情を壊したくないからね」

「そんな気をつかわないでくださいよ」

 翠は引き留めようとするが、蒼也をチラリと見た悠輝が荷物をまとめて立ち上がる。

「またちゃんと連絡してから来るからさ。ばいばい」

 玄関で靴を履きながら悠輝が振り返る。

「あ、翠ちゃん、また都合がついたらパーティーに来てよ。蒼也、僕一人だと居心地悪いから、これからも奥さん借りてもいいだろ。あ、なんか、この言い方もマズイか。じゃあね。おっと、お二人とも、おめでとうございます!」

 ドアが閉まると、急に部屋が静かになった。

「あいつ」と、蒼也は苦笑を浮かべた。「散々からかっていったな」

「でも、お祝いしてくれて嬉しかったですよ」

「そうだな」と、翠と向かい合って蒼也は本音をもらした。「いいやつなんだ、根は」

 落ち着きを取り戻した部屋で、二人は夕飯の準備に取りかかった。

 窓の外はすっかり暗くなって、金粉をまき散らしたような夜景が広がっていた。

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