ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

   ◇

 冷蔵庫の中を二人でのぞき込みながらメニューの相談。

 顔が近いことに気づいて一瞬引きそうになるけど、翠はなんとかこらえた。

「さっき言ってた、パスタとサラダでいいか」

「あ、はい、そうですね」

 蒼也の提案に合わせて翠はいくつかの材料を取り出した。

「ブロッコリーとアスパラ、それとシーフード素材がありますから、オリーブオイルとニンニクのパスタにしますよ」

「うまそうだね」

「蒼也さんはちょっと辛めが好きですよね」

「作る人の好みでいいよ。タバスコで調整できるし」

 どちらかといえば翠が辛いのが苦手なのを蒼也は知っているのだ。

「でも、せっかくだから、食べてほしいのを作りますよ」

「そ、そうか……じゃあ、任せる」

「はい。期待してくださいね」

 と言いつつ、実は隠し事がある。

 トマト系のソースにしないのは、また『ケチャップついてる』と笑われないためだ。

「俺はサラダを作るのを手伝うよ」

「あ、そうですね。お願いします」

 と、野菜室を開けたときだった。

 リビングのテーブルの上で蒼也のスマホが震えた。

「おっと、電話だ。すまん」と、駆け寄った蒼也がスマホを取り上げる。「オウ、ハーイ、グッモーニン」

 あれ、朝?

 夕方なのに?

 あ、そうか、海外の人だと、時差があるのか。

 蒼也は真剣な表情で会話をしながら窓辺に歩み寄っていく。

 結婚すると、パートナーの仕事のリズムにも合わせていかなくちゃならないんだろうな。

 翠はサラダの材料を取り出し、一人で調理に取りかかった。

 早くに亡くなった母の代わりに、翠は小学五年生くらいからカレーやラーメンなどを作っていた。

 レシピ通りにやるだけで、自分では得意と思っているわけではなかったが、たいていのものは作れる。

 ただ、蒼也の味の好みは正直よく分からない。

 好き嫌いやアレルギーはないようだが、味付けの好みはどうだろう。

 心の片隅に不安を残しつつ、翠がパスタとサラダを完成させたところで蒼也が電話を終えてカウンターに戻ってきた。

「あ、すまん」と、頭を下げる。「もうできあがってたか。一人でやらせてしまって申し訳ない。重要な話だったんで」

「心配しないでください。お仕事はお仕事ですから」

 盛りつけたお皿を蒼也がじっと見つめている。

「どうかしましたか?」

「いや、見事なものだなと」

 海老やイカのシーフード素材をオリーブオイルとガーリックでペペロンチーノ風に仕上げたパスタはブロッコリーとアスパラの緑が目に鮮やかだ。

 スライスしたキュウリとトマトにレタスのサラダもシンプルだが、立体的な盛り付けがみずみずしさを演出している。

< 30 / 99 >

この作品をシェア

pagetop