ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「ええと、その……」と、一言つぶやいた蒼也が考え込んでいる。「丁寧に切ってあるな。大変だっただろ」

「どうしたんですか。悠輝さんの配信動画にレビューでも書くんですか?」

「いや、ちゃんと言葉にして褒めろってあいつに言われたからさ」

 正直な打ち明け話に翠は思わず吹き出してしまった。

「それじゃあ、かえって褒め方下手で誤解されますよ。なんか後ろめたいところでもあるんじゃないかって。感想は食べてからでいいですよ」

「まあ、そうだよな」と、蒼也が笑いながらテーブルに皿を運んでいく。

 そんな彼の背中を目で追いつつ、翠はふふっと笑みをこぼしていた。

 蒼也と同級生だった悠輝に紹介されたのは翠が中学生になったときだったが、その時に耳打ちされたのだ。

『翠ちゃんが実在していてよかったよ。あいつが女の子に自分から声をかけたなんて、僕、信じられなくてさ。翠ちゃんっていう二次元キャラかと思ってたんだよ』

 悠輝の話では、中学の時点ですでに身長が百八十あった蒼也は、系列小中高の女子ほぼ全員から告白されていたらしいけど、あっさり断っていたらしい。

『悪いが、今やるべきことが多すぎて、余計なことは考えられないので』と。

 そこは、心に決めた許嫁がいるからと主張して欲しいところだけど、蒼也なりの本音だったんだろう。

 告白してきた相手の気持ちを『余計なこと』と言い切ってしまえば、相手がどんな気持ちになるかなんて、配慮せずにバッサリ断ち切ってしまった方がむしろ引きずらなくていいという判断なのだろうが、人柄によっては恨まれるところだ。

 ――ホント、罪な人。

 一番振り回されたのは私なんだけどね。

 仕事では有能なのに、恋愛になるとなんでお膳立てとか気づかいが苦手なんだろう。

 まっすぐすぎるというか、段階を飛ばすというか、簡単に言えば強引なんだろうな。

 日本の大学を出てからも、アメリカに留学し、MBAを取得、ベンチャー企業の経営者となってからは仕事で忙しくて、恋愛なんてしてる暇なかったんだもんね。

 小学生の頃は年下だった私の方が幼すぎたから頼もしく見えたけど、実際のところ、蒼也さんは基本的に女性の扱いに関しては不器用なのよね。

 でも、それはたぶん、誠実さの証なんだろな。

 それを一番分かってるのは私……って、やだ、もう、何考えてるんだろ。

 一人で勝手に盛り上がっちゃって恥ずかしい。

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