ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「蒼ちゃんはさ、翠ちゃんのことを、話も聞かずに切り捨てるような人だと思うの?」

「そうじゃないから、ずっと大事にしてきた」

「分かってるんじゃん」

「俺が翠を好きな気持ちは説明ができないけど」と、蒼也は自分の胸を親指で指した。「好きだって言う気持ちは間違いなくここにある。初めて会ったその日からずっと変わってないよ」

「それをさ、僕に熱弁してないで、本人に言えばいいんだよ。僕が言われたいくらい熱い気持ちなんだからさ。翠ちゃんだって聞いたら喜ぶと思うよ。蒼也の気持ちが本物なのは僕が一番分かってるからさ」

「今さら照れくさいんだよ」

 そんな嘆きにニヤける悠輝を蒼也がにらみつける。

「言わせて満足か」

「ごめんよ。素直な蒼ちゃんなんて、珍しいからさ」

 悠輝は顔を突き出して蒼也の赤い顔をのぞきこんだ。

「そんな素直な蒼ちゃんに聞くけどさ、翠ちゃんとはキスしただけ?」

「そうだよ」と、目をそらしながら蒼也はソファに体を預ける。「悪いか」

「そこから先へは進みたいとは思わなかったの?」

「偽装結婚なんて言ったんだ。行けるわけないだろ」

「あのさ、財産とか、家柄とか、いろんなしがらみがあるのも分かるけどさ、べつに結婚と恋愛はイコールじゃないんだから、翠ちゃんが受け入れてるなら、べつにOKだったんじゃないの?」

「受け入れてなかったら?」

 はばかることなく悠輝が吹き出す。

「あのさ、抱きしめれば、相手の気持ちくらい伝わるでしょ。嫌な相手なら拒絶されるだろうし」

「そ、そういうものか……」

 うつむいて唇を噛みしめる蒼也に悠輝はたたみかけた。

「抱きしめた後はどうすればいいか分かる?」

「何のテストだよ。漢字ドリルでもやってろ」

「懐かしいね」と、悠輝が天井を見上げる。「二人で宿題やってたら、幸之助さんがどら焼きくれたよね」

「萬英堂のだろ。ああ、そう言えば……」と、蒼也は立ち上がってキッチンから箱を持ってきた。「生前にじいさんがさ、悠輝にって手配してくれてたんだってよ」

 ミサラギホテルのマークがついた熨斗紙が巻かれた懐かしい菓子折だ。

「やっぱり覚えていてくださったんだ」と、悠輝はしみじみと受け取った。「ありがたくいただくよ」

「ビールには合わないけどな」

「せっかくだからアイスティーでも作ろうか」

 氷やグラスを出したり、積極的に手伝う蒼也を横目で眺めながら悠輝は濃いめにアイスティーをいれた。

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