ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
ラグの上に座り直し、どら焼きを頬張る。
「相変わらずおいしいねえ」
思い出の味をゆっくりと味わってから悠輝は話を戻した。
「で、うまくかわしたつもりかもしれないけど、さっきの答えは?」
「抱きしめたら、そりゃまあ、アレだろ」
「アレって何?」
「アレだよ」
「そうやってはぐらかすからこじれてるんじゃないの?」
グラスの中で氷が崩れ、音を鳴らす。
「キスくらいならするだろ」
「いや、だからさ、その後だよ。まさか、いきなり押し倒すとか思ってないよね」
「犯罪だろ」
「少しはまともな感性があって良かったよ」と、悠輝はアイスティーで喉を潤した。「たとえばさ、翠ちゃんを抱きしめたと想像するだろ」
「おまえが想像するなよ」
「だから、蒼也が思い浮かべてよ。で、キスしてさ、髪とか背中とかを優しく撫でたりするだろ」
「ま、まあ、そうだな……」
「でさ、そうしているうちに、相手が身を委ねてくる感覚って分かる?」
蒼也がネジが切れたおもちゃのように固まっている。
吹き出すのをこらえながら悠輝が自分を指さす。
「僕で試してみる?」
「冗談でもやめろ」
「じゃあ、ぬいぐるみとかは……ここにはないか。枕は?」
「おまえの前で、そんな練習できるかよ」
「ははん、じゃあ、一人ならするんだね」
「だから、しないって。どうしても言わせたいんだろ」
「僕はさ、翠ちゃんを心配してるんだよ。こんな男に惚れられちゃったのが運の尽きだなってね」
テーブルの上のグラスをシンクに運びながら、悠輝が聞こえよがしにつぶやく。
「蒼也の代わりに僕がやっちゃおうかな」
「あのなあ」と、すかさず蒼也が詰め寄る。「いくらおまえだからって、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「それだよ。そこまで本気なんだったら、どうしてそれを翠ちゃんに言ってあげないんだよ。僕が女の子だったら、そんなあやふやな蒼也なんか絶対に許さないし、好きになんかならないよ」
そして悠輝はまっすぐに親友を見つめた。
「本当によその男に奪われちゃってから後悔しても知らないよ」
窒息したような表情で蒼也が胸を押さえる。
悠輝は横目でその様子を眺めながらグラスを洗った。
「こわいんだよ」と、蒼也はうつむいて拳を握りしめていた。「二十年夢見てきたことが煙みたいに消えてしまったらどうしようって……さ」
「確実に言えるのは、何もしなければ本当に消えちゃうってことだね」
カウンターに両手をついて、鍵盤のようにせわしなく指を動かしながら、しばらく蒼也は黙り込んでいた。
すべての洗い物が終わったころ、ようやく指が止まった。
「分かったよ。ちゃんと話しに行くよ」
「相変わらずおいしいねえ」
思い出の味をゆっくりと味わってから悠輝は話を戻した。
「で、うまくかわしたつもりかもしれないけど、さっきの答えは?」
「抱きしめたら、そりゃまあ、アレだろ」
「アレって何?」
「アレだよ」
「そうやってはぐらかすからこじれてるんじゃないの?」
グラスの中で氷が崩れ、音を鳴らす。
「キスくらいならするだろ」
「いや、だからさ、その後だよ。まさか、いきなり押し倒すとか思ってないよね」
「犯罪だろ」
「少しはまともな感性があって良かったよ」と、悠輝はアイスティーで喉を潤した。「たとえばさ、翠ちゃんを抱きしめたと想像するだろ」
「おまえが想像するなよ」
「だから、蒼也が思い浮かべてよ。で、キスしてさ、髪とか背中とかを優しく撫でたりするだろ」
「ま、まあ、そうだな……」
「でさ、そうしているうちに、相手が身を委ねてくる感覚って分かる?」
蒼也がネジが切れたおもちゃのように固まっている。
吹き出すのをこらえながら悠輝が自分を指さす。
「僕で試してみる?」
「冗談でもやめろ」
「じゃあ、ぬいぐるみとかは……ここにはないか。枕は?」
「おまえの前で、そんな練習できるかよ」
「ははん、じゃあ、一人ならするんだね」
「だから、しないって。どうしても言わせたいんだろ」
「僕はさ、翠ちゃんを心配してるんだよ。こんな男に惚れられちゃったのが運の尽きだなってね」
テーブルの上のグラスをシンクに運びながら、悠輝が聞こえよがしにつぶやく。
「蒼也の代わりに僕がやっちゃおうかな」
「あのなあ」と、すかさず蒼也が詰め寄る。「いくらおまえだからって、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「それだよ。そこまで本気なんだったら、どうしてそれを翠ちゃんに言ってあげないんだよ。僕が女の子だったら、そんなあやふやな蒼也なんか絶対に許さないし、好きになんかならないよ」
そして悠輝はまっすぐに親友を見つめた。
「本当によその男に奪われちゃってから後悔しても知らないよ」
窒息したような表情で蒼也が胸を押さえる。
悠輝は横目でその様子を眺めながらグラスを洗った。
「こわいんだよ」と、蒼也はうつむいて拳を握りしめていた。「二十年夢見てきたことが煙みたいに消えてしまったらどうしようって……さ」
「確実に言えるのは、何もしなければ本当に消えちゃうってことだね」
カウンターに両手をついて、鍵盤のようにせわしなく指を動かしながら、しばらく蒼也は黙り込んでいた。
すべての洗い物が終わったころ、ようやく指が止まった。
「分かったよ。ちゃんと話しに行くよ」