社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「清瀬穂花さんですね。お待ちしておりました」

 そう言って頭を下げた男性。年の頃は、四十歳くらいだろうか。顔にわずかに刻まれたシワと人好きする笑み、そして穏やかな口調は、一見柔和(にゅうわ)な印象を人に与える。ただ瞳の奥で見え隠れする鋭さが、彼がただ者ではないと知らしめていた。

 終業後も、三揃えのスーツをパリッと着こなした姿は、さすが、世界に名だたる一色グループ傘下の会社の社長秘書だと言える。そんな感心も、秘書の朝霞さんに促され入った社長室に居た人物を見た時、消え去った。

 大きく切り取られた窓から、外を眺める男性。妙に迫力ある後ろ姿に、喉がゴクリと鳴る。

 ガッチリとした身体に、ピンストライプの茶系のスーツを上品に着こなし立つ男こそ、私を呼んだ社長で間違いない。その表情をうかがい知ることは出来ないが、(まと)うオーラが、もう煌びやかすぎる。ただ立っているだけで様になる男など、芸能事務所を経営している叔父のところで見慣れているはずの自分が、彼の持つ雰囲気にのまれている。

 そして、振り向いた彼の顔に、さらなる衝撃を受けた。

 これは、モテるわ。

 王子様ともてはやす女達の気持ちがわかってしまった。キリッとした眉に、くっきり二重の瞳、そしてスッと通った鼻筋。それら全てのパーツが、小さな顔に均整の取れた状態で綺麗に収まっている。まさに神が創りたもうた美しい人間が、そこに存在していた。

 しばし、その最高傑作を堪能する。ボーッと見惚れていた私は、自身の名を呼ぶ声に気づかない。
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