社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「――――穂花さん」

「清瀬穂花さん――。聞いていますか?」

「はい?」

「大丈夫ですか? ボーッとしていたようですが」

 窓際にいた美丈夫が、いつの間にか目の前にいる。それに気づいた私は素頓狂(すっとんきょう)な悲鳴をあげていた。

「すすす、すみません! だだ、大丈夫ですから」

 きっと数十センチは飛び退ったと思う。そんな私の様子を見て、クスクスと目の前の美丈夫が笑う。それを唖然とした面持ちで眺めることしか出来ない。

 笑うと随分と印象が変わる男だ。

 端正な顔は、表情が抜け落ちていると、人形のような冷たい印象を人に与える。しかし、笑った途端、一気に印象が変わった男の表情は、とても魅力的に映る。目尻が下がり、口角が上がり、白い歯がわずかに除いた表情は、どこか愛嬌がある。

 不思議な印象を持つ男だ。

 これでは、どんな女も放ってはおかないだろう。

「ふふふ、慣れていますから、お気になさらず。大抵の女性陣は、貴方と同じような反応を示す」

 彼の言葉に、弾んだ心が冷えていく。

 結局、モテ男は言うことも気障ったらしい。そんな、反発心も手伝い、冷たい声が出ていた。

「それで、何のご用でしょうか?」

「おや? 珍しい女性もいたものだ……。まぁ、いいか」

 どこか人を小馬鹿にしたような言葉に、さらに反発心が募る。

「あの、私を揶揄って遊ぶおつもりで、お呼びになったのでしたら、他をあたってください」

 そう告げ、踵を返し扉へと向かう。私の頭の中には、彼が自分を助けてくれた男性であることも、お礼を言わず逃げたことも、クビを告げられるかもしれないということまでも、すでに消え去っていた。

「ま、待ってくれ!」

 慌てた声と共に、追いかけてきた彼に腕を掴まれる。それを見て反射的に、睨んでいた。

「あぁぁ、すまない。清瀬さん、貴方を揶揄っていた訳ではないんだ。どうやら、自分が思っている以上に浮かれていたようだ」

「浮かれていた? どういうことですか?」

「これ――」

「――嘘っ!? 私のマスコット……」
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