社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「――――清瀬穂花か」

 彼女を助ける方法を模索していた俺にとって、今朝起きた事件は、幸運としか言えない。

 俺の目の前で派手に転んだ彼女が残していったマスコットを見た時、神に感謝した。まさか、こんな身近に『花音』のファンがいるとは思っていなかった。しかも女性だ。

 きっと、女性ならではの視点で、良いアドバイスをくれることだろう。

 俺ですら所持していないグッズを持っていたのだ。花音のコアなファンである可能性は高い。

 それにしても、あのマスコット。彼女はたまたまライブの抽選で当たったなどと、ほざいていたがそんな情報、ファンクラブサイトにも載っていなかった。

 花音の情報は、くまなくチェックしている俺が見落としたとでも言うのか?

 目の前のパソコンを再度立ち上げ、あるサイトへとアクセスする。

 『花音♪初期メンバー限定ファンクラブ』

 Vチューバーデビューしたばかりの駆け出しだった頃を知る花音のファンのみで構成されたファンクラブ。このファンクラブに所属する者達であれば、俺の疑問にも的確に答えてくれるだろう。

 キーボードを打ち、非売品のマスコットの件について聞いてみる。待つこと数分、画面に示された回答を眺め、自分の予想が当たっていたことを悟る。

「やっぱりか……」

 最近開催された鏡レンナのライブで、非売品の花音マスコットを配られた形跡は無しと。しかも、鏡レンナのライブで、花音のキャラグッズが販売されること自体、あり得ない事らしい。

 鏡レンナには、全く興味がない俺には、ライブに行くという発想がそもそもない。だからこそ、清瀬穂花の発言の違和感に、あの時気づくことが出来なかった訳だが。

 彼女は、なぜあんな嘘を俺についたのか?

 清瀬穂花は、まだ何かを隠している。

 そんな言葉が、脳裏をかすめ、消えていく。

 まぁ、いい。これから、いくらでも接点を作ることは出来る。彼女の隠した秘密は、おいおい探っていけばいいだけの話だ。

 いつになく心が浮き足立っている自分に苦笑をもらし立ち上がると、キラキラと輝くオフィス街の夜景に視線を移した。
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