社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
 配信中に流れる投げ銭の嵐や、販売されるグッズを数百個単位で購入していくファンがいるのは知っている。ありがたい事だとも思うが、そんな様子を見るたびに、心が痛かった。そのうち、生活が破綻してしまうのではと心配にもなる。だからこそ、ある程度の人気が出てからは、一人当たりの販売個数を決めたり、投げ銭をストップしたりもしていた。

 一年前、鏡レンナがデビューするまでは……

 社長がどれくらいの資産があるかはわからない。私が想像する以上にお金に余裕があるのかもしれない。ただ、無理はして欲しくはないし、間違った認識を布教してもらっても困る。

「いえいえいえ、違います。社長の言ったことも確かに、推し活でしょう。しかし、そもそも推し活とは、もっと簡単な活動なのです。それこそ、お金をかけなくたって出来ます」

「そうなのか? 推し活などと、巷で大騒ぎしているから、もっと大それた事だと思っていた。例えば、推しのために何千万と貢ぐとかな」

「……違います。社長、どこぞのキャバクラと推し活を間違えていらっしゃいますか?」

「何を言う、失敬な! 花音への愛は、無償の愛だ。金と欲にまみれたキャバクラなんぞと一緒にするな」

「そうですか……」

 無償の愛ですか。どうして、この男は恥ずかしげもなく、愛を叫べるのだろうか。

 言葉のチョイスが、クサ過ぎて、背がムズムズする。もう、顔から火を吹きそうなほど、恥ずかしい。

「もういいです! 色々と認識が間違っていることはわかりました。推し活は、お金がなくても出来るものだという事を覚えておいてください。推しの動画にコメントを残したり、反応を返すだけでも推し活です。それだけではなく、友達に推しを布教したり、SNSを駆使して、推しを宣伝するのも推し活です」

「なら、大々的な宣伝広告を打って……、いいや、大量のアルバイトを雇って、視聴数を稼ぐとか……」

「だから違いますってば!! 私は、そんな大きな話をしているのではありません!」

 話がどんどん予想外の方向へと展開していく社長の言葉を遮る。少々、ムッともしていた。
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