社長の推しは、地味メガネのわたしでした。

墓穴を掘る

――花音と話しているような錯覚を覚えるよ。

 項垂れていた社長が顔を上げ、切なそうに細められた瞳で私を射抜く。

 本気でマズい……。

 跳ね上がった鼓動の音が、ガンガンと頭に響き、冷や汗が大量に背を流れていく。

 社長は花音に似ていると言っているだけで、花音の中身が私だと気づいた訳ではない。

 まだ、誤魔化せる。

「はは、ははは。花音と似ているなんて恐れ多いですよ」

「そうかな? なんだろうね。清瀬さんと話していると、心が軽くなるんだよ。自分に寄り添ってくれるっていうのかな、少し前向きな言葉を最後に必ずくれる感じ、花音にそっくりなんだよ。やっぱりファンだから似るのかな……」

 そう言って笑う社長から目が離せない。彼の言葉が、心を温めてくれる。

 花音として活動してきて、色々な事があった。時にはひどい言葉を投げつけられた事もあった。しかし、今日まで続けられたのは、私の言葉に癒され、前を向き歩き出す事が出来たと嬉しそうに語ってくれるファンの言葉の数々があったからだ。

 そんな言葉を目にするたび、私こそ彼らから勇気をもらっていた。何の取り柄もない自分でも、誰かを救える事もある。

 劣等感の塊だった私の心が解放される場所。それが『花音』という存在だった。
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