社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「私こそ、ファンから勇気をもらってた……」

「えっ、何かな?」

「いいえ、何でもありません。私が花音に似ているかはさておき、話を進めましょう。それで、社長は、どうして推し活に協力して欲しいだなんて、言い出したのですか? 話を聞いている限り、十分に推し活しているように感じますが」

 何しろ、湯水の如く金を注ぎ込んでいるようだし……

「確かにな。清瀬さんは、最近の花音の様子、どう思う?」

「えっ? 花音の様子ですか? 質問の意図がよくわかりませんが」

「そうか、君はライブに行くくらいだから、花音のファンと言うより、鏡レンナのファンに近いのかもしれんな。だから、知らなくても仕方ないか」

「どういう意味ですか?」

「今、花音のファンの間で、ある噂が流れている。花音がVチューバーを引退するのではないかと」

「えっ? 引退?」

「あぁ。実際に、鏡レンナとしてデビューしてからは、Vチューバー花音としての活動も減ってきているし、配信回数や動画のUP本数も減っている。グッズに至っては、鏡レンナのグッズが大半で、花音のグッズはここ半年販売すらされていない。しかも、最近は定期配信でしか、姿を見せない。ファン達が、花音が引退するかもと、騒ぎ出すのも無理ない話だ」

 確かに、鏡レンナがデビューしてからは、事務所の方針もあり、Vチューバー花音としての活動は、減りつつある。ただ、花音の活動が減ったとしても、花音の中身、鏡レンナがいるのだから、ファンにとっては何の問題もないはずだ。たとえ花音の中身が私であったとしても、その事に気づく者などいない。

「確かに、花音の活動は減っていますが、鏡レンナがいれば、ファンにとっては何の問題もないのではありませんか? 花音の中身は鏡レンナなのだから」

「清瀬さんは、そう思うのか……。君は知らないんだね。花音のファンの中には、鏡レンナを受け入れられない者達もいると言うことを」

「どう言う事ですか?」

「花音と鏡レンナ。二人は、あまりにも違いすぎる。野に咲く花のように可憐な印象の花音と、大輪の花のように華やかな印象の鏡レンナ。同じ人間のはずなのに、あまりにも違う。コアなファンの間では、今でも別人説が流れているくらいなんだ」

「嘘っ……そんな、まさか……」

「まぁ、鏡レンナは対外的で、花音が素の自分ですと言われればそれまでなのだが」

 彼は、花音と鏡レンナの秘密に気付き始めている? 

 万が一、花音と鏡レンナが同一人物ではないとバレたら、大変な事になる。

 どうにかして誤魔化さないとと思えば思うほど、焦りだけが募り、言葉が出ない。
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