社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「今まで俺は、花音のファンであって、鏡レンナには全く興味がなかった。だから、鏡レンナのライブに行った事もなければ、鏡レンナとして配信しているチャンネルを観たこともない。ただ、それではダメだと思っている。花音のファンとして、彼女の中身である鏡レンナを深く知ることで、花音のこともより深く理解出来るのではないかと思うんだ。そうでなければ、花音の真のファンを名乗る事はできない」

「はぁぁ、そういうものですか……」

 鏡レンナを知ったところで、別人である花音を深く理解出来るとは到底思えないが、とりあえず、秘密に気づいた訳ではないとわかり、ホッと息をつく。

「清瀬さんは、どうやら鏡レンナのファンでもあるらしい。鏡レンナを知るには、まず何をしたらいいと思う?」

「えっ? 鏡レンナを知るには?」

 そんな事、私に聞かないで欲しい。鏡レンナのファンでもないのに、答えられる訳がない。

「あぁ、恥ずかしながら彼女の事は、一般人と同じレベル程度の知識しかない」

「はぁ、そうですか……。では、ファンクラブに入るとか」

「ファンクラブは花音の情報を得るために、すでに入っている」

「……ですよね。じゃあ、鏡レンナの配信を観てみるのはどうですか?」

「それもあらかた、観終わっている」

「……」

 私が提案する推し活は、やっていて当然か。

 社長は、自分が思いつかない推し活方法を私に聞いているのだ。確か、さっきライブには行った事がないと言っていなかったか。

「社長、あの。鏡レンナのライブには行きましたか?」

「いいや、行った事はないな。いまいち、ライブの作法とやらが分からなくてね。二の足を踏んでいる」

「なら、ライブに行ってみてはいかがですか?」

「ライブに行くのか? あまり乗り気はしないが……」

「大丈夫ですよ。行ってみたら案外楽しいかもしれませんよ。それに、ライブの鏡レンナを観れば、また見方も変わるかもしれませんしね」

「そんなものか……。じゃあ、一度行ってみるか」

「アドバイス出来て良かったです。では、失礼いた――」

「ちょっと、待ってくれ!」

 さっさと退散しようと頭を下げ踵を返そうとして呼び止められる。

「何でしょうか?」

「もちろん、清瀬さんも付き合ってくれるんだよな? 鏡レンナのライブ」

 眼光鋭く釘をさす社長の言葉に、墓穴を掘った事に気づいた。

 何してんのよ!! これじゃ、社長との接点が増えるだけじゃないか。

 花音の秘密がバレる危険性がさらに増しただけの状況に、ただただ頭を抱える事となった。
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