社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「ちょっと、落ち着けって。なんで、そんなに周りの目が気になるんだ」
「社長にはわかりませんよ! 何に対しても自信満々で、それに見合うだけの地位も権力も財力もある人に、私の気持ちなんてわからない……」
なぜ、こんな思いをしなければならないのか? もう、泣きたい……
社長も、妹も……。光の中を歩んできた人間に私の気持ちなんてわからない。誰よりも光の存在に憧れ、だけど、光の存在には成れないことを知った人間の絶望など、彼らには理解出来ない。
世の中には、陰の中でしか生きられない人間もいると言うことを、彼らは知らない。だから、無理やり陽の当たる場所へと連れ出そうとする。今のように。
「わかるから、ここに連れてきたんだろうが。さっき言ったよな。かつての俺は劣等感の塊だったと」
「そんな事、信じられる訳ないじゃないですか!」
「だから、ここに連れて来た。この店は――」
「一色様、ご無沙汰しております」
突然かけられた声に、二人の動きが止まる。店の扉の前に立ち、にこやかにこちらを見つめる初老の男性は、この店の支配人か何かだろうか? ピシッと着こなしたお仕着せ姿は、妙な貫禄がある。
「あぁ、支配人か。すまない、店の前で騒いでしまって」
「いいえ、構いませんよ。今夜のお客様は一色様だけですので」
「無理を言って済まなかった」
「とんでもございません。お客様が誰であろうとも最高のおもてなしをするのが私共の務めでございますから、お気になさらず。それに、お連れ様と大切なお話をされているようにも感じまして……。少々お節介かとも存じましたが、声をかけさせて頂きました。美味しい料理に、お酒。人間、お腹が満たされれば、気持ちも落ち着きますでしょう。どうぞ、お連れ様と一緒に、お入りくださいませ」
支配人の言葉が合図となり、両側に立っていたドアマンが扉を開く。
これでは、もう逃げられない。
退路を断たれ、社長に腰を抱かれた私は、前に進むしかなかった。恨みがましい思いで見上げた私の視線は、きっと届いていない。諦めの境地で、前へと進む私の足取りは重かった。
「社長にはわかりませんよ! 何に対しても自信満々で、それに見合うだけの地位も権力も財力もある人に、私の気持ちなんてわからない……」
なぜ、こんな思いをしなければならないのか? もう、泣きたい……
社長も、妹も……。光の中を歩んできた人間に私の気持ちなんてわからない。誰よりも光の存在に憧れ、だけど、光の存在には成れないことを知った人間の絶望など、彼らには理解出来ない。
世の中には、陰の中でしか生きられない人間もいると言うことを、彼らは知らない。だから、無理やり陽の当たる場所へと連れ出そうとする。今のように。
「わかるから、ここに連れてきたんだろうが。さっき言ったよな。かつての俺は劣等感の塊だったと」
「そんな事、信じられる訳ないじゃないですか!」
「だから、ここに連れて来た。この店は――」
「一色様、ご無沙汰しております」
突然かけられた声に、二人の動きが止まる。店の扉の前に立ち、にこやかにこちらを見つめる初老の男性は、この店の支配人か何かだろうか? ピシッと着こなしたお仕着せ姿は、妙な貫禄がある。
「あぁ、支配人か。すまない、店の前で騒いでしまって」
「いいえ、構いませんよ。今夜のお客様は一色様だけですので」
「無理を言って済まなかった」
「とんでもございません。お客様が誰であろうとも最高のおもてなしをするのが私共の務めでございますから、お気になさらず。それに、お連れ様と大切なお話をされているようにも感じまして……。少々お節介かとも存じましたが、声をかけさせて頂きました。美味しい料理に、お酒。人間、お腹が満たされれば、気持ちも落ち着きますでしょう。どうぞ、お連れ様と一緒に、お入りくださいませ」
支配人の言葉が合図となり、両側に立っていたドアマンが扉を開く。
これでは、もう逃げられない。
退路を断たれ、社長に腰を抱かれた私は、前に進むしかなかった。恨みがましい思いで見上げた私の視線は、きっと届いていない。諦めの境地で、前へと進む私の足取りは重かった。