社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「美春に聞いたのね」

「あぁ、やたら目立つ奴だったな。穂花の会社の社長なんだろ?」

「……だから何? 律季には、関係ないでしょ」

「関係なくは、ないだろう。穂花は鏡レンナの関係者だ。アイツ、鏡レンナのファンなんだろ? 穂花と鏡レンナが姉妹だって気づいたら、厄介な事になる」

 鏡レンナ、レンナって何なのだ!!

 自分が理不尽なやつ当たりをしているのも分かっている。律季は、鏡レンナのマネージャーなのだから、トラブルの芽を早めに摘みたいと考え、社長の危険性を私に言っているのも分かる。

 ただ、我慢出来なかった。

「そんな事、律季に言われなくたって分かっているわよ!! 社長とは、関わらないから、もういいでしょ。ほっといてよ……」

「放っておける訳ないだろう!」

 なによ! 律季まで私の行動を制限するって言うの。

『鏡レンナ』として妹が羽ばたけるように、私には犠牲になれと言う。

 そんな人生、もう嫌だ。

 前の自分なら我慢出来た。社長に出会う前の自分なら我慢出来た。

 ただ、もう無理だった。

 前を向き、一歩を踏み出す決意をした今の自分には、妹のために自分を犠牲にする事は、もう出来ない。

「律季に私の行動を制限する権利なんてない! 私が誰と交流しようと、誰と行動を共にしようと、誰と付き合おうと、貴方には関係ないでしょ!」

 捨て台詞を残し、さっさと立ち去ろうと踏み出した足が止まる。律季に捕まれた腕がジンジンと痛む。

「離してよ!」

「離す訳ないだろ!! 今、何て言った? 俺には関係ない。穂花が誰と付き合おうが、関係ないって言ったよな? ふざけるな!」

 部屋に響いた怒声に身体が固まる。こんなに激昂した律季を見た事がなかったのだ。

「まさか、あの社長と付き合っているんじゃないだろうな?」

 怒りを孕んだ低い声に、ビクッと身体が震える。一瞬にして脳を支配した恐怖が、心臓の鼓動を速める。

 ただ、もう引けない。

「私が誰と付き合おうが、律季に関係ないでしょ! もう、妹とも関わらないし、あの家も出て――」

「――絶対に許さない!!!! 穂花が俺から、離れるなんて絶対に」

「あ〜、終わった。アレ? 律季と……、穂花?」

 間の抜けた声をあげ、控え室に入って来たのは、握手会を終えた妹の美春だった。
< 41 / 41 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

近くて、遠い、恋心
湊未来/著

総文字数/29,643

恋愛(純愛)32ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
世界で誰よりも、近くて、遠い存在。 この想いは決して許されない。 でも、今だけはあなたのそばにいさせて。 稲垣夏菜(いながきなつな)26歳 中規模広告代理店勤務。広告デザインを担当するクリエイター志望だが、下請け企業のため営業、市場調査、企画立案まで何でもこなす。ポテンシャルは高いが、何でも出来る義兄の影響で自己肯定感低め。 親の再婚で初恋の人が義兄となってしまい、恋心を捨てたいのに、離れることも出来ず、いまだにずっと兄に恋している不憫女性。 × 稲垣理人(いながきりひと)27歳 大手銀行の営業マン。常に営業成績はトップクラス。 爽やかイケメンで、人当たりがいい。 要領がよく、何でも卒なく熟すため、職場、営業先でも重宝され人気も高い。 夏菜とは高校時代、陸上部の先輩後輩の関係だった。父親の再婚後、妹となった夏菜に愛情を注ぐが、その愛は果たして。
豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網
湊未来/著

総文字数/119,243

恋愛(オフィスラブ)109ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの? 経験豊富なお姉さん……」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの。ふふふ、貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールのはずだった。 運命とは時に残酷で甘い。 ♢ ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。 苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。 年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
表紙を見る 表紙を閉じる
『エリザベス、貴様との婚約を破棄する』  公爵令嬢エリザベスは、婚約者である第二王子ウィリアムから突然婚約破棄を言い渡される。初恋の君でもあった、ウィリアムからの婚約破棄にショックを隠しきれないエリザベスだったが、今回の婚約破棄が王家の総意であることを知り、あきらめざるを得なかった。  当主より領地での静養を言い渡されたエリザベスは、失意の中、領地へと向かう。そこで待っていたのは予想外の人物だった。 「何で、貴方がここにいるのよ?!」  公爵家別邸の客間に現れた人物を見て叫ぶエリザベス。それを見つめ、不敵に微笑む貴公子。 「聞いていませんか? 貴方と私の婚約が成立したことを」 「えっ? 嘘でしょ。冗談も休み休み言ってちょうだい」 「なぜ、冗談だと思うのです?」 「だって、わが国では、公爵家同士の結婚は許されていないもの。天地がひっくり返っても貴方との結婚はないわ」    初恋の君を忘れられない残念令嬢×あらゆる手段を講じて初恋の君を手に入れようと画策する腹黒貴公子のピュアラブトラップ。  果たして、エリザベスは腹黒貴公子の恋の罠から逃げられるのか?

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop