社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
 ボトルを掴むと、空のグラスにドボドボと注ぎ、一気に飲み干した。焼け付くような刺激が喉を通り、胃がカッと熱くなる。初めて飲んだ赤ワインの味は、不味かった。口一杯に広がる渋みと苦味が、自分の心の中を表しているようで、虚しい笑いが込み上げる。

 こんな高級ワイン、やけ酒する女なんて私くらいか。

 手に持ったワインボトルのラベルには、金縁の装飾がされており、いかにも高そうだ。どれくらい高価なものか知らないが、どうせ社長の奢り。『鏡レンナ』との出会いをお膳立てしてやったと思えば、高級ワインのガブ飲みだって許されるはず。

 酔っていなければ、そんな大それた行動など取りはしない。ただ、急速に酔いが回った私の頭は、思考力を放棄した。

 空になったグラスに再度赤ワインを注ぎ、一気に煽る。

「おいっ! 穂花飲み過ぎだ。お前、お酒強くないだろうが」

「うるさいわね! 外野は黙ってなさいよ」

 隣に座っていた律季が私の異変に気づき静止を促すが、時すでに遅かった。

 頭の中がふわふわする。

 酔いが回った脳は理性というストッパーをすでに停止させていた。後に残されたのは、凶暴なまでの本能をむき出しにした人間が残るのみ。

 徐々に目がすわっていく。

「穂花! いい加減にしろ。ここにいたら迷惑だ。帰るぞ」

 握っていたボトルを律季に奪われ、手をつかまれる。

「離してよ! なんで私が帰らなきゃいけないのよ。それとも何? 私が邪魔だって言いたいの!」

「そんな事、言ってないだろう。一色さんに迷惑がかかるって思わないのか!」

「迷惑? 迷惑かけられているのは、こっちよ! ファンだか何だか知らないけど、レンナ、レンナってうるさい。私の存在って、何なのよ……。もう、ほっといて……」

 律季に捕まれた手を振り払い、扉へと向かう。静止を叫ぶ声を最後に、扉の外へと出た私は、早足で店内を抜けると、雑多な街へと飛び出した。
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