社長の推しは、地味メガネのわたしでした。

巡り合わせ

「間に合ったぁ……」

 高層ビルが立ち並ぶ一角。一際高いビルを見上げ、あがった息を整える。始業時間十五分前を示す腕時計の文字盤を見て、ホッと息をついた。

 駅から数分とはいえ、全速力で走った甲斐があった。

 こんな時だけは、地味な既製品のパンツスーツにローヒールのパンプス姿でよかったと心底思う。今も脇を抜けエントランスへ吸い込まれていく、おしゃれな女性達のような格好では、走ることすら無理だっただろう。そんな自嘲的なことを思いながら、エントランスの自動ドアへとむかい、違和感に気づいた。

 何で、こんなにロビーに人がいるのよ?

 始業時間直前にも関わらず、ロビーホールにいる人の多さに面食らう。確かに、仕事が始まる直前なのだから人が多くなるのはわかる。ただ、エレベーターへと向かう人の流れとは別に、なぜかホールの脇に留まり、エントランスの入り口を見つめる人達もいる。しかも、そのほとんどが女性だ。

 誰か来るのだろうか? 

 そんな疑問が頭に浮かぶが、始業時間差し迫った私にとっては、そんな疑問を考えている余裕はない。慌てて、エレベーターへと向かうが、その日はとことん運が悪かった。

 早足で駆け出すと同時に動き出した人の波。その波に揉まれ、気づいた時にはエレベーターホールの真ん中ですっ転んでいた。しかも悪いことに、転んだ拍子に眼鏡もどこかへと飛んでしまった。

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