社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
 前が見えない。

 ただ、シーンっと静まり返ったホール内の状態に、自分の置かれた状況を理解した。

 どうしよぉぉ……

 前がぼやけてはっきりとはわからないが、このまま、この場所に留まっているのは非常にマズい気がする。毎日通っている職場だ。視界がぼやけていても、人目のつかない所までなら、どうにか移動出来るだろう。そう思い立ち上がろうとして――

「大丈夫? 眼鏡ないと見えないでしょ?」

 目の前に差し出された眼鏡らしき物体。どうやら、心優しい人が拾ってくれたらしい。

 慌てて、眼鏡を受け取り、かけると視界がはっきりしてくる。それと同時に、自分の置かれた状況を正しく理解した。

 自分を取り囲む人の足足足。そして、散乱した自分の荷物。

 どうやら、ロビーホールの真ん中ですっ転んで、大勢の人に囲まれているらしい。頬に熱が急速に溜まり、頭が真っ白になる。

 もう、目線を上げることは怖くて出来なかった。散乱した荷物をかき集め、立ち上がると、お礼も言わずに駆け出す。その後ろ姿を、眼鏡を拾ってくれた男性が、落としたマスコットを拾い上げ、見つめていたなど思いもせずに。
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