社長の推しは、地味メガネのわたしでした。

光と闇

 本当に今日はついていない……

 デスクに突っ伏し、きっちり一つに結んでいた髪をガシガシとかく。

 朝の一件のせいで、結局遅刻することとなってしまった。誰だかわからないが、朝のクソ忙しい時間帯に、人が集まってしまうほどの人物など現れないで欲しい。その人が現れなければ、あんな恥ずかしい思いもしなかったし、遅刻することもなかった。駅から全速力で走った甲斐も、無に帰してしまった。

 ただの八つ当たりだ。決して、ロビーホールに現れた人物が悪い訳ではない。わかっている。悪いのは全て私。

 いつもの時間に起き、いつもの時間に家を出て、いつもの時間の電車に乗り、いつもの時間に会社についていれば、朝の一件は起きなかった。全ては、昨夜の私が悪いことはわかっている。

 妹に頼まれ取った配信が、ライブで荒んだ心を癒してくれた。画面上を流れるファンからの優しい言葉が、冷えた心を温めてくれる。それが、自分ではなく、妹に向けられた言葉であったとしても、あの一時(いっとき)だけは、違う。だから甘えた。

 いつもは三十分だけの配信を、気づいたら四時間も取っていた。深夜ニ時に寝落ちするように配信を切ったことだけは覚えている。次に目が覚めた時、時計を見て血の気が引いた。そして、今に至る。

「穂花! おっはよぉ〜」

「……おはよ」

 同期の安藤心菜(あんどうここな)の元気な声に、視線を投げ、すぐに突っ伏す。

「もう、どうしたのよ。元気ないなぁ……。あぁ、そっか。今朝の事件か」

「えっ!? どうして知っているのよ!」

 心菜の言葉に、伏せていた顔を慌ててあげる。

「そりゃ、知ってるわよ。我、一色(いっしき)コーポレーションの王子様の前で、派手にすっ転んだ女がいるって。穂花、今社内でちょっとした有名人になっているわよ」

「嘘でしょ……」

 じゃあ、眼鏡を拾ってくれた心優しい人。まさか、その王子様とやらだったりして……。頭に浮かんだ言葉に、背筋が凍る。

 あの人待ちの数だ。もし、眼鏡を拾ってくれた男性が、その王子様だったら、大変なことになる。身のほど知らずの女と、社内の女性陣から爪弾きにされてしまう。

「嘘じゃありません。しかも、王子様に眼鏡まで拾ってもらったんだって?」

 私の人生詰んだ。
< 7 / 41 >

この作品をシェア

pagetop