Dearest 2nd 〜Moon〜
俺は一年前、仲間の手を振り払った。
そして今度は仲間が手を差し伸べてくれた。
だから、今度は俺が手を差し伸べ返す番。
「────マリア」
「ん?」
片手でケータイをイジるマリアに声を掛ける。
「今回のライブさ、ボーカルとドラム交代しよか。」
「は?」
パチパチと長い睫毛が瞬きを繰り返す。
マリア以外の吾郎、壱も目を見開いた。
「俺、ボーカルは無理やけどドラムなら出来そうやから♪」
「純……?でも」
「────リハビリせなな。
まずはステージに立つことから、さ。」
それは痩せ我慢でも無理でも何でもない。
いつまでも逃げてちゃダメだ、と思った。
俺は歌が好きだ。
音楽を聴く事も、奏でる事も、全部好きだ。
好きなのに近寄れない、と思い込んで自分で壁を作ってしまったなら、少しずつ壁を壊していけばいい。
それに、俺はやっぱり仲間をステージに立たせてあげたい。
……いや、俺がこいつらとステージに上がりたいんだ。
どんな形でも。
たとえ違うポジションでも。
「あ、あたしが歌うのはいつもパフォーマンスで…」
「えーやん♪今回は全部マリアが歌って♪
初期はお前がボーカルやったんやから問題ないって」
「でも…」
「マリアさえいいなら、いいんじゃないか?
純もせっかくあぁ言って復帰しようとしてるんだし、ここは目を瞑って、さ。」
吾郎の後押しに、マリアは困った様子で頬を染めた。
「えーオレやだなー」
「うっさい猿」
「はっ!?やっぱヤダ!!ヤダヤダ!!!!」
マリアと壱の馴れ合いに思わず笑ってしまった。
きっと、何だかんだ言って三人はライブに出たいはずだから。
もともと俺達紅は結成当初、マリアはボーカルの予定だった。
俺はドラム。
それがある日を境に立場が逆転して今の立ち位置に変わった。
だから大丈夫。
最初に戻ったと思えばそれもそれで楽しい。
「……よしっと。」
俺は用紙の”参加”にマルを付けた。