Dearest 2nd 〜Moon〜
正直に言うと、俺はプロでも何でもないし、そこらへんにいる、ただ音楽が好きなだけの奴だ。
だから好きなように何をしたって許されるし、
別にいつ消えても何も言う人はいないと思っていた。
ただ目の前にいる客と楽しむだけ。
固定のファンなんか絶対いないと思ってたし、俺達だけを気に入って追い掛けてくれる人なんていないと思っていた。
いつ存在していたのかも、いつ消えたのかも分からない存在だと思っていたんだ。
……だからこんな風に復帰を待ち望んでくれていた人がいるなんて、知らなかった。
こんなに長く音沙汰無しなら普通は見放されても当たり前だ。
────それでも……
“待っているよ”、と言ってくれる人。
そんな人を一人でも作る事が、どんなに難しくて奇跡的なことだろうか。
自分自身を好きだと言って付いてきてくれる人が、どれだけ有り難い存在だろうか……。
こんなの、当たり前じゃない。
俺は香宮さんを通じて痛感した。
「……何か、めっちゃ嬉しいかも…」
「え?」
「俺……あん時すげぇキツくて。
体も精神的にもボロボロやったから……」
「そうだったの……」
香宮さんは俺を労るような、優しい眼差しを向けた。
不思議なことに、その優しさがますます俺を素直にさせてくれる。
「……そっから自信失くなって、さ。
俺、今声出ーへんねん。」
「え?……声……が?」
「うん、全く。歌おうとしても怖くて。」
「どうして?何かあったの?」
「……そん時はね。でももう解決済み。
あとは俺自身の問題。」
「…そう…」
────こうなった事。
チカのせいにはしたくない。
もちろん当時はそうだったけど、もう違う。
俺はただステージの視線が怖くて逃げてるだけだ。
もう、あとは俺がどこまで前を向けるか。
うつ向いている顔をどこまで上げられるか。
────俺に突き付けられた選択はそんな気がした。
そろそろ、この問題にYesかNoで答えなきゃならない。
────また歌いたいのなら。