警視正は彼女の心を逮捕する
 二人のあいだに、数十人の人が動いていても。
 買い物に行って少し離れても。
 私が彼を見つけたときには、目が合う。

 ……私より先に鷹士さんが必ず見つけてくれるからだ。

 鷹士さんが、近づいてきてくれる。
 なんでだろう。
 息をはずませて、幸せそうな表情を浮かべている彼に、泣きたくなった。

「日菜乃ちゃん」

 私が声をかける前に鷹士さんが声をかけてくれた。
 彼が申し訳なさそうな表情になる。

「いきなり来てごめん。忙しかった?」

 ううん、と言おうとして声にならなくて。

「……どうした?」

 気懸りそうに訊ねてくれた。

 頬に手が添えられそうなり、彼の温もりを期待してしまう。
 けれど、触れるか触れないかとのところで止まった。
 彼のためらいが、もどかしく感じるなんて。

「大丈夫か」

 ふたたび問われる。

 いけない、この人に心配させてしまっている。
 なんとか息を整えて、笑ってみせた。

「だいじょ、ぶ。鷹士さんが来てくれて、嬉しくなっちゃった、だけなんです」

 答えたら、彼は変な顔をした。

「……なんでそういうこと、言うかな」

 ぼそりと呟かれた声は聞き逃さなかったけれど、意味がわからない。

「え?」

 鷹士さんは私の手首を掴むと、ぐいぐいと中に戻っていった。
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