警視正は彼女の心を逮捕する
公然と、アプローチされる
『第一展示場』というくらいだから、正門を通って入場口から一番近い場所にある。
 わが美術館の第一展示室は、建物の正面近くの右側だ。

 対して、職員用の通用口は建物の真後ろ。
 つまり、建物の中を通らない場合、職員用の通用口からは建物を半周ぐるっと迂回することになる。

 今、私は体感何百メートルかを全力で早歩き中。

 ……走るのもどうかと思うけれど、ゆっくり歩くことも出来ない。
 今なら競歩の選手にスカウトされてもいいんじゃないかと思うくらい、早足だった。

 焦る。
 どうしてだか、鷹士さんとすれ違ってはいけないような気がする。

「まだいるかな」

 動かないで、と半ば祈りつつ携帯を確認する。

『急がないでいいよ、動いてないから』

 まるで私の動きを見ているようなメッセージが送られてきていた。
 顔が歪む。

「なんで、いつも私の考えていることがわかるの……っ」

 いつも私の先回りをして。
 私を楽にさせてしまう人。

 ようやく建物の正面に到着した。
 入り口で職員用PASSを見せ、走り抜ける。

 私が第一展示室に入った瞬間、鷹士さんが私を見つけてくれた。
< 99 / 223 >

この作品をシェア

pagetop