警視正は彼女の心を逮捕する
「今までの分と当座の間の分。もちろん、守秘義務込みで。あなたがそこに置いた三百万あれば、十分でしょう」

 ギョッとした。
 私が置いたもの……、お金? 
 ダッシュボードの包みに目をやり、慌ててそらし。
 重要なことに気づいた。

「ちょっと待ってください、誤解してらっしゃいます!」

 つい声を大にして叫んでしまう。
 私はもう、彼の『お手伝いさん』じゃない。
 そのお金で別の人を雇えばいい。

「綾華さんは」
「お嬢様のお名前を口にするな」

 運転手さんが凄みのある口調で制してきた。
 怖い。けれど誤解は糾さなければ。

 私が喋る前に綾華さんが艶然と微笑む。

「誤解じゃないでしょう。あなたが悠真のスキャンダル防止のため、夫のそういった欲求を処理する係として同居していたことは、知っていてよ」

 愕然とする。

「……私が……?」

 ショックで、言葉が出てこない。
 意味もなく、唇を舐める。
 ようやく口を開けば、掠れた声が出た。

「……確かに私は悠真さんと同居していました。でも、言われたような間柄ではありません」
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