警視正は彼女の心を逮捕する
「夫は必要があれば、教えてくれます!」

 私が叫べば、綾華さんが艶やかに微笑んだ顔がバックミラーで見えた。
 彼女の唇が容赦なく言葉を紡ぎだす。

「今ね、彼は美術品の贋作詐欺事件を追っているのよ」
「……なぜ」

 怖い。
 この人は何をどこまで知っているの。
 体が勝手に震えだす。

「そんなことより、どうして鷹士があなたと結婚したか」

 言葉に反応して、体が跳ねてしまった。
 
「聞きたくない……っ」

 とっさに耳を手で塞ぐ。
 しかし運転手さんに片腕を握られてしまい、聞かないようにすることは叶わない。

 綾華さんの言葉が入ってきた。

「苦手分野を、あなたで補おうと考えたからよ」
「嘘……」

 まさか、そんな……。

「ね? わかったでしょう。二人の男にとって、あなたがどんな役割をしていたか」

 綾華さんが勝ち誇った調子で告げ終わると、唐突に車は止まった。

「降りるんだ」

 運転手さんに冷たく言われ、フラフラと外へ出た。

「お金を忘れていてよ」

 背中に声がかけられる。

「要りません、そんなお金」

 言い捨てれば、まだなにか言ってきたようだけど。
 私は振り返ることなく歩きだした。
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