警視正は彼女の心を逮捕する
 鷹士さんは、私のリアクションに目を丸くした。
 一瞬のち、なにかに思い至ったようで、ニヤリを笑う。
 ううう、ニヒルで艶がありすぎる。
 それに、勘がよすぎるのも考えものだ。
 
「ひどいな、人を化け物みたいに」
「文句を言ってるふりして余裕たっぷりの流し目とか。わざとらしく髪をかき上げないでくださいっ」

 彼の、腕を動かした時に現れた筋肉や、汗をかいている肌から目が離せなくなる。

「ど、どうして朝から汗だくなんですか」

 美しい男性はダヴィデ像をはじめ、美術館で見慣れているはずなのに。生身の威力、半端ない。
 
「ん。可能な限りトレーニングしててね」
「な、なるほど? だから、そんなにスタイルいいんですね」

 ……って、私。絶対に鷹士さんの喉元より下を見てはダメだから!
 
「シャワーを浴びてもいいかな?」
 
 ホテルライクな洗面所はゆったりしているので、大人が二人いても狭く感じない。
 けれど私がいると、彼は脱げないわけで。

「どうぞっ、すぐに出て行きますので!」

 極力、鷹士さんのほうを見ないようにしながら、回りこんでドアから脱出を試みた。
 すると、耳元で囁かれる。

「つれないな。『一緒に入る』とは言ってくれないのか?」
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