警視正は彼女の心を逮捕する
 鷹士さんが車を出してくれた。
 当然のように示されたけれど、助手席は初めて。
 まごついていると、シートの位置調整やシートベルトの締め方を教えてくれる。
 いざ出発すると、私は歓声を上げてしまった。
 
「わあ……!」

 これが助手席の眺め!
 電車だと横向きに景色が流れる。
 車の助手席だと、目の前の景色が近づいては左右に分かれて後ろに遠のいていく。

「ジェットコースターみたい! 特等席ですね」
「はしゃいでるね」

 私が弾んでいる声のせいか、鷹士さんも楽しそうだ。
 ……そんなイメージなかったけれど、もしかしたら彼は買い物が好きなのかもしれない。
 車のキーを取り上げたとき、ウキウキしているように見えたもの。

「助手席、生まれて初めて乗るんです!」

 告白したら驚かれた。

「え? 藤崎のおじさんの車にも?」
「はい、父はプロの運転手なので」

 父は宗方の家で運転手をしている。
 悠真さんのおじ様のリクエストでいついかなる時でも運転するため、我が家スペースにいる父は、いつも寝ていた。
 ……小さいときから『乗せてほしい』とねだってはいけないと思っていた。

 鷹士さんのリアクションは少し間があった。

「……そうなんだね」
「はい! それと私は、あまり出向もなくて」

 設備が整っていないと出来ない修復が多くて、美術品が訪ねてくる感じ。
 美術品の運搬はプロにお任せしているので、結局車の免許を取らなかった。

「俺の助手席は、いつでも日菜乃ちゃんのものだよ」

 私は正面からの景色に夢中だったけど、元気に返事をした。

「はいっ」
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