警視正は彼女の心を逮捕する
 和やかな雰囲気から一変して艶めかしくなってしまう。
 私は慌てて彼から距離をとった。

 途端に、くっくっく……と、また肩を震わせてる!
 揶揄われたっ。

「もー!」

 憤慨してみせる。
 ……これは、フリ(・・)だ。

 私。
 笑われているのに、どうして楽しく思えるのかな。

 悠真さんを前にすると、どこか気が抜けなかった。
 常に美しく見えるよう計算していた。
 背筋をまっすぐに。
 口を開けて笑えなかった。

 ようやく笑いの衝動がおさまったらしく、鷹士さんは私に向き直った。

「さっきの質問の答えだけど。わかるよ、俺にはね」

 どきん。
 ……彼の表情が意味深に思えてしまうのは、意識過剰かな。

 うん、きっとそうだ。
 鷹士さんは警察官。
 取り調べもしているのかもしれない。
 職業柄、表情を読むのは得意なのだろう。

「さ、駐車場でじゃれてても仕方ない。上にあがろう」

 私が一方的にからかわれてたんですが?
 口を尖らせていたら、楽しそうに呟かれた。

「どうも俺は好きな子いじりするタイプみたいだな」

 返事をしないで、鷹士さんより前を歩く。

 多分、彼に他意はない。
 ときめいちゃだめ。
 悠真さんのときみたいに勘違いするのは嫌だ。

「……まだだよ」
「え?」
 
 つい、彼のほうを向いてしまったら、私をじっと見つめていた。
 なんとなく待ってしまうと、やがて彼の唇が言葉をつむき出す。

「俺の気持ちを」

 鷹士さんから目が離せない。

「俺の気持ちをこれから思い知って?」

 なにか聞こえた気がするけれど、全力でスルー!
< 46 / 223 >

この作品をシェア

pagetop