警視正は彼女の心を逮捕する
「お誕生日おめでとう」

 グラスを渡してくれながら、言ってくれた。
 受け取りながら目が丸くなった自覚がある。

「……ご存知だったんですか」

 誕生日といえども、お父さんはおじ様の用事で運転。
 お母さんは、おば様や悠真さんがお招きしたお客様のご飯の支度。
 祝われたことがなかった。

「もちろん。藤崎さんご夫婦は忙しいだろう? ずっと祝ってあげたかった」

 どうして、この人は私のことをわかってくれるのだろう。
 ……悠真さんは、私の誕生日すら覚えてないのに。
 涙ぐみそうになる。

「ありがとう、ございます」
「これ、プレゼント」

 贈り物までもらってしまった。
 小ぶりなトップがついた、ペンダント。

「こんなに頂けません」

 ケーキも花束も。
 なにより祝ってくれることで十分なのに。
 
 固辞すれば、いいんだよと言われてしまう。

「三倍返しを期待しているから」

 寄越されたウインクが、ぱちんと綺麗に決まる。
 だから。

「ええー、無理です!」

 私も冗談として返すことができた。
 
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