警視正は彼女の心を逮捕する
「鷹士さんたら」

 子供じゃないんだからと思いつつ、自分を案じてくれる人がいるのは嬉しい。
 暗くなった気持ちが浮上してきた。
 ぽちぽちとメッセージアプリに打ち込む。

「ありがとうございます。最終的には到着しましたが、迷いました」

 案内板があったけれど、それでも迷った。
 そればかりを見ていると、歩いている人にぶつかりそうになるし。

 都会の人ってすごい。
 上京して一年経ったけれど、この人口密度の濃さと迷宮のような駅の構内には、いまだに慣れない。

 ……同居するときは、悠真さんがターミナル駅まで迎えに来てくれて。
 すいすいと、人の間を避けていく彼を追うのは大変だったけれど、幸せだった。

「悠真さん……」

 ぐす。いけない、油断しているとメソメソしてしまう。
 携帯が振動する。

『迷ったら、おまわりさんに聞くといい。親切に教えてくれるよ』

 思わず、顔がほころんだ。

 これは、鷹士さんに聞けってことなんだろうかと思いかけ。
 全力で首を横に振る。

「……私ったら。リップサービスを信じちゃだめ」

< 55 / 223 >

この作品をシェア

pagetop