警視正は彼女の心を逮捕する
「日菜乃ちゃんから着信あったのに、メッセージも留守電にも入ってないから気になった」

 それだけで鷹士さんは、私を探してくれたらしい。
 私はゆう君と住んでいたマンションの前の公園にベンチで座っていたのだという。
 話しかけてもぼんやりしていて、返事もしなかったと。

「事件性はなさそうだったから、ひとまず安心したんだが」

 冷えきった私を、鷹士さんは自分のマンションに連れてきてくれたのだそうだ。

「……そう、だったんですね……」

 声をかけられたことも、連れてきてもらったことも、覚えていない。
 どこかに座って、『このまま消えてしまいたい』とか考えていた気はする。

「ごめんな、俺が気づくの遅すぎて」

 申し訳なさそうに謝られてしまった。

「こちらこそ、ご迷惑をおかけして……」

 帰らなきゃ、ゆう君の部屋へ。
  ……ううん、悠真さんは別の女性と結婚するんだから。
 彼の部屋から荷物を持って出て行かなくちゃ。
 
 寝ていた姿勢から起き上がろうとした。
 ぐらりと視界がぶれる。

「日菜乃ちゃん!」

 鋭い声が聞こえたとほぼ同時に、力強い腕に抑えこまれる。

「まだ寝ていなさい」

 なんだか、くすぐったい。

「ふふ、おかしい。鷹士さんたら、大人の男の人みたいな口調になってる」

 ……そうだ。彼は男の人なのだと、しみじみ実感してしまう。
 もう、子供のころのように甘えて遊んでもらうことは出来ないのだ。

 なぜだか、涙が溢れてきてとまらない。
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