最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「ほかの人間は関係ない。俺が、嫌なんだ。臨が俺以外の男とふたりで食事に行くのが」

 紡がれた内容に、私は何度も瞬きを繰り返す。貴治さんの声はきちんと聞こえたのに、意味が理解できない。

 なにも言えずにいると、手をそっと握られ距離を詰められる。すぐそばで彼と視線が交わり、息を呑む。

「行ってほしくない。行きたいなら俺が連れていく。それじゃダメか?」

 どこか不安そうで、懇願めいた表情。こんな 貴治さんは初めて見た。いつも冷静で厳しくて、正しいと思ったら自分の意見や意思が絶対だったのに。

 今だって、契約や祖母の家の件を持ち出して、私に言うことを聞かせるのは簡単なはずだ。以前の彼なら、きっとそうしていただろう。

 でも、貴治さんは自分の気持ちを伝えたうえで、私の気持ちも汲もうとしてくれている。

 私は小さく首を横に振った。

「職場の先輩とふたりで行くのはやめます。どうしてもってわけじゃないですし……私、今は貴治さんの妻ですから」

 少しだけ笑ってみせ、私も白状する。

「私も……貴治さんが末永さんとふたりで食事に行ったり、飲みに行ったりするの、本当は嫌でした。行かないでくれていて……うれしいです」

 ずっとモヤモヤしていた気持ちの正体がやっとわかる。

 ヤキモチを妬いていたんだ。私にはそんな資格はないのに。

 そこで、ふと思い直す。この気持ちをそのまま貴治さんに伝えてもよかったのだろうか。妻とはいっても、私は別れるのが決まっている一時的な存在だ。
< 100 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop