最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「あ、あの――」

 フォローしようとすると、貴治さんの大きな手のひらが頬を撫でた。驚きと、伝わる体温に、肩をびくりと震わせる。

 気がつけば、先ほどよりも近くに貴治さんの顔があり、吐息が伝わりそうな距離に心臓が跳ね上がった。なにもできずただ彼を見つめるしかできない。

 ゆるやかに顔を近づけられ、そっと目を閉じようとした。

「熱いな」

「え?」

 けれど不意に貴治さんにつぶやかれ、目を見開く。

「まだ水を飲んでなかっただろ」

 そう言って、貴治さんはうしろのテーブルに置いたグラスにミネラルウォーターを注いでいく。

 その姿を見て、熱のこもった両頬を手のひらで押さえた。

 キス、されるのかと思った。

 自分の思考回路が嫌になる。貴治さんが私に触れたのは、酔い具合を確かめるためだった。

「ほら」

「ありがとうございます」

 腰を浮かせ、彼からグラスを受け取る。けれど指先がすべり、グラスは私の手のひらからすべり落ちていった。

「あっ」

 幸いグラスは割れなかったが、ドレスが濡れてしまい血の気が引く。自分のものではなく、貴治さんのお母さんが用意してくれた相応の値段のする代物だ。

 水だから大丈夫だろうか。量はそこまで入っていなかったので、床やソファは濡らさなかったが胸もとからお腹にかけてが冷たい。
グラスを拾ってテーブルの上に戻していると、貴治さんはバスルームからタオルを持ってきてくれた。
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