最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「ん? 臨があまりにもかわいらしいから」

 けれど続けられた言葉は、私のまったく予想していないもので、恥ずかしさで足がふらつきそうになる。

「あっ」

 ソファに座り込みそうになったが、間一髪で貴治さんが腰に腕を回して支えてくれたのでよろめくだけで済んだ。しかし、結果的に彼に捕まる形で密着する。

 貴治さんを直視できず、このままの体勢で下を向く。さっきから顔の熱が取れないのは、間違いなくアルコールのせいだけじゃない。

 すると、貴治さんは私の腰に腕を回したまま、もう片方の手をテーブルに伸ばす。

 どうしたのかと視線を向けると、彼はミネラルウォーターを入れた新しいグラスを取った。手渡されるのかと思ったら、どういうわけか彼自身がグラスに口をつける。

 その仕草ひとつが妙に妖艶で、目を奪われる。しかし次の瞬間、グラスをすばやくテーブルの上に戻した貴治さんは、そのまま私に口づけてきた。

 目を閉じる余裕もなく、瞬きを繰り返す。唇はなかなか離れず、訴えかけるような貴治さんの目に、なんとなく意味を悟った私はゆるゆると唇の力を緩めた。

「んっ……」

 案の定、唇の隙間から水が口内に流し込まれ、恥ずかしさを堪えつつ、ごくりと飲み込む。私のペースを見計らいながら、貴治さんは口移しで水を与えてきた。
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