最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 ごくり、と飲み込む音がいつもより大きく聞こえるのは気のせいなのか。腰に回した腕は力強く、逃げられない。

 やがてすべての水を飲んだからか、貴治さんの唇が離れた。

「はっ」

 無意識に大きく息を吸う。そんな私を貴治さんは余裕たっぷりに見つめ、頬を撫でた。

「結局、水を飲ませられてなかったからな。まだいるか?」

「もう……結構です」

 蚊の鳴くような声で答える。酔いが醒めるどころか、余計に酔ってしまいそうだ。

「遠慮しなくていい」

 貴治さんがまたグラスに口をつけるので、私はかぶりを振った。

「していません。もう大丈……んんっ」

 最後まで言わせてもらえず、唇が重ねられる。どうやらグラスに入っていた分の水を飲み切るまでは、解放してもらえないらしい。

 観念して、貴治さんのジャケットをぎゅっと掴み、受け入れる姿勢を見せる。最後の一滴を飲み干したタイミングで離れようとしたら、改めて口づけられる。

「あっ」

 唇の間に舌先が添わされ、びくりと体が震える。恐怖でも嫌悪でもない。

「臨」

 自覚があるのか、ないのか。艶のある声で名前を呼ばれ、水を口移しされたときと同じように唇の力を緩めた。今度は水ではなく、ぬるっとした肉厚の舌が進入してくる。

 どうしたらいいのかわからず硬直していると、彼の舌先が私の舌先に触れた。
< 105 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop