最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 気が抜け、頭がくらくらする。肩で息をしつつ貴治さんに抱きしめられているので、その場でへたり込むのは避けられた。

 口の端から唾液がこぼれ、慌てて拭こうとしたら、貴治さんに軽く舐めとられる。

「あっ」

 キスは終わったのに、腔内はまだ熱く、舌は痺(しび)れている。心臓は今になって、壊れそうに激しく脈打っていた。正確にはキスの間も同じようにドキドキしていたのかもしれないが、そこまで頭が回らなかったのだ。

 貴治さんの大きな手のひらが髪をそっと撫でる。そのとき不意に彼と目が合い、私はとっさにうつむいた。

 あからさまに避けるような真似をしてしまった。でも、貴治さんの顔が見られない。

 恥ずかしい。どうしよう。変な声が出てしまったし、絶対に変な顔もしていた。なんとか息を整えていると、頭に温もりを感じる。

「悪い、強引すぎた。臨が嫌なことはしないつもりだったんだが――」

「ち、違うんです!」

 うつむいたままの姿勢で、叫ぶ。

「嫌とかではなく……。今、変な顔をしているから貴治さんに見られたくないんです」

 また顔が熱いって心配をかけてしまうかも。

「断る」

 ところが貴治さんは言うや否や、私の顎に手をかけ強引に上を向かせた。おかげで私の視界が急に切り替わる。

「変じゃないだろ。どんな表情の臨も見たいんだ」

「なっ」

 反応する前に唇を重ねられる。そこで貴治さんと目が合い、ふと気づく。
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